シナリオ

9
パリのホテルの一室。テーブルに携帯を置き、椅子に腰掛けながら、亜矢子は暗い表情でうつむいている。そこへ、秀樹が入室する。
秀樹 「ただいま。」
秀樹は亜矢子を見て、ただならぬ雰囲気を感じる。亜矢子は泣きそうな顔を無理矢理笑い顔に変えて、彼を見る。
亜矢子 「お帰りなさい。どこに行っていたの。」
秀樹 「バーで紅茶を飲んでいたんだ。」
亜矢子 「バカね。お酒を飲んでもいいよ。」
亜矢子は、秀樹の顔をじっと、見つめる。
亜矢子 「ねぇ、秀樹、お酒、飲もう。ね、飲みに行こうよ。」
秀樹 「何を言ってるんだよ。(デスクに置いてある紙片を指して、)第三条、飲酒は厳に慎むこと。」
亜矢子 「私、飲まずにはいられないのよ。」
秀樹 「それにホテルのバーも閉まっちゃったしさぁ。」
亜矢子 「秀樹ったら、閉店までずっと紅茶を飲んでいたの?」
秀樹 「紅茶が好きなんだよ。」
亜矢子 「おっかしい。(部屋の冷蔵庫からワインを取り出して、)飲みましょう。(栓を抜き、グラスに注ぐ。)カンパーイ」。
秀樹 「まったく、この女は、規定をすっかり破っちゃったよ。知らないぞ。知らないぞ。酔った勢いにまかせて、どうにかなっちゃうかもよ。」
亜矢子 「どうにでもしてくれていいよーだ。」
秀樹 「(亜矢子の様子がおかしいことにようやく気づいて、)おい、おまえ、変だぜ。何かあったんじゃないのか?」
亜矢子 「(やや暗い声で、)何にもないよー。(グラスのワインを飲み干して、どぼどぼ、と音を立てて注ぐ。)」
秀樹 「何だか、やけになって飲んでいるみたいだぜ。立ち入ったことにふれて悪いけど、彼氏と何かあったんじゃないのか?」
亜矢子 「(図星をつかれて少しあせりながら、)別にー。何で、そう思うのよ。」
秀樹 「だって、俺が部屋に戻ってきた時も思いつめた顔で携帯を見ていたしさ。」
亜矢子 「(数秒間無言の後、)もう、いいの。そんな話はやめましょう。もっと楽しい話をしようよ。(またグラスの中身をのどに流し込み、ワインを注ごうとする。)」
秀樹 「(ボトルを押さえて注がせない。)ほら、もうやめとけ、やめとけ。」
亜矢子 「いいじゃない。飲ませてよ。(その拍子にボトルから赤ワインがこぼれる。)あらら。(亜矢子はタオルを濡らして持ってきて、カーペットを拭き始める。)」
秀樹 「冷たいと思ったら、俺もびしょびしょだよ。」
亜矢子 「かわいそうに、今拭いてあげるね。(タオルをすすいできて、秀樹のズボンや足を拭き、急に両足に抱きつく。)」
秀樹 「こら、おまえ何をやっているんだよ。離れろ。」
亜矢子 「もう私だめ。酔っ払って動けないよぉ。」
秀樹 「おいっ、おい。(亜矢子はゆすっても動かない。)本当に寝ちゃったのかな。仕方がない。よいしょっ、と。(亜矢子をベッドの上に運ぶ。離れようとすると、亜矢子が首に両腕を回す。)こいつ、俺を彼氏と間違えているのかなぁ。」
亜矢子 「間違えてないよ。」
秀樹 「何だよ、起きているなら、自分でベッドに入れよな。」
亜矢子 「今日もソファで寝るの?」
秀樹 「ああ、当然だろ。」
亜矢子 「もういいよ。君の禁欲ぶりは理解したから、ベッドで寝なよ。」
秀樹 「そんなわけにいくかよ。」
亜矢子 「じゃあ、離してあげない。」
秀樹 「おい、悪酔いするなよ。おまえ、やっぱり変だぞ。」
亜矢子 「変じゃないもん。」
秀樹 「わかった、わかった。ベッドで寝るから、手を離してくれ。」
亜矢子が手を離すと、秀樹はすばやく隣のベッドに乗っかる。
秀樹 「(しばらくして、)彼氏から電話があったのか?」
亜矢子 「(反対側を向き、)なんか怒っているみたい。」
秀樹 「やっぱり今回の旅行、まずかったな。」
亜矢子 「『別れよう』、だって。」
秀樹 「別れ……。」
亜矢子 「(また秀樹の方を向き、両手を伸ばす。)こっち来て。」
秀樹 「こっち来てったって。」
亜矢子 「いいから、抱いてよ。」
秀樹 「何を言って……。」
亜矢子 「もう、女の子にこれ以上恥ずかしいことを言わせないでよ。お願い。」
秀樹はブツブツ言いながら亜矢子のベッドに移る。二人はしばらく無言。秀樹は意を決して亜矢子を強く抱き、布団の外に亜矢子の服を一枚一枚放り投げる。自分の服もすっかり投げ捨てると、キスする。その時、亜矢子の携帯が鳴り出す。亜矢子は腕を伸ばして携帯を取る。
亜矢子 「もしもし……。ああ、何よ。……ちょっと待ってよ。別れるって言ったじゃない。あなたの方が……。もう、どういうつもりよ。」
亜矢子は、毛布をまとって、ベッドから降り、カーペットの上で長い電話をする。秀樹はパジャマを着て、自分のベッドに戻る。電話が終わると、亜矢子も毛布の中にパジャマをたぐり寄せ、着終わると、自分のベッドに入り、ライトもすっかり落とす。
秀樹 「よかったじゃないか、仲直りできたんだろ。」
亜矢子 「秀樹、ごめんね。」
秀樹 「いいんだよ。これで。こういう規定だったんだから、これでよかったんだよ。」
亜矢子 「うん。ありがとう。」
秀樹 「おやすみ。」
亜矢子 「おやすみなさい。」
秀樹 「ただいま。」
秀樹は亜矢子を見て、ただならぬ雰囲気を感じる。亜矢子は泣きそうな顔を無理矢理笑い顔に変えて、彼を見る。
亜矢子 「お帰りなさい。どこに行っていたの。」
秀樹 「バーで紅茶を飲んでいたんだ。」
亜矢子 「バカね。お酒を飲んでもいいよ。」
亜矢子は、秀樹の顔をじっと、見つめる。
亜矢子 「ねぇ、秀樹、お酒、飲もう。ね、飲みに行こうよ。」
秀樹 「何を言ってるんだよ。(デスクに置いてある紙片を指して、)第三条、飲酒は厳に慎むこと。」
亜矢子 「私、飲まずにはいられないのよ。」
秀樹 「それにホテルのバーも閉まっちゃったしさぁ。」
亜矢子 「秀樹ったら、閉店までずっと紅茶を飲んでいたの?」
秀樹 「紅茶が好きなんだよ。」
亜矢子 「おっかしい。(部屋の冷蔵庫からワインを取り出して、)飲みましょう。(栓を抜き、グラスに注ぐ。)カンパーイ」。
秀樹 「まったく、この女は、規定をすっかり破っちゃったよ。知らないぞ。知らないぞ。酔った勢いにまかせて、どうにかなっちゃうかもよ。」
亜矢子 「どうにでもしてくれていいよーだ。」
秀樹 「(亜矢子の様子がおかしいことにようやく気づいて、)おい、おまえ、変だぜ。何かあったんじゃないのか?」
亜矢子 「(やや暗い声で、)何にもないよー。(グラスのワインを飲み干して、どぼどぼ、と音を立てて注ぐ。)」
秀樹 「何だか、やけになって飲んでいるみたいだぜ。立ち入ったことにふれて悪いけど、彼氏と何かあったんじゃないのか?」
亜矢子 「(図星をつかれて少しあせりながら、)別にー。何で、そう思うのよ。」
秀樹 「だって、俺が部屋に戻ってきた時も思いつめた顔で携帯を見ていたしさ。」
亜矢子 「(数秒間無言の後、)もう、いいの。そんな話はやめましょう。もっと楽しい話をしようよ。(またグラスの中身をのどに流し込み、ワインを注ごうとする。)」
秀樹 「(ボトルを押さえて注がせない。)ほら、もうやめとけ、やめとけ。」
亜矢子 「いいじゃない。飲ませてよ。(その拍子にボトルから赤ワインがこぼれる。)あらら。(亜矢子はタオルを濡らして持ってきて、カーペットを拭き始める。)」
秀樹 「冷たいと思ったら、俺もびしょびしょだよ。」
亜矢子 「かわいそうに、今拭いてあげるね。(タオルをすすいできて、秀樹のズボンや足を拭き、急に両足に抱きつく。)」
秀樹 「こら、おまえ何をやっているんだよ。離れろ。」
亜矢子 「もう私だめ。酔っ払って動けないよぉ。」
秀樹 「おいっ、おい。(亜矢子はゆすっても動かない。)本当に寝ちゃったのかな。仕方がない。よいしょっ、と。(亜矢子をベッドの上に運ぶ。離れようとすると、亜矢子が首に両腕を回す。)こいつ、俺を彼氏と間違えているのかなぁ。」
亜矢子 「間違えてないよ。」
秀樹 「何だよ、起きているなら、自分でベッドに入れよな。」
亜矢子 「今日もソファで寝るの?」
秀樹 「ああ、当然だろ。」
亜矢子 「もういいよ。君の禁欲ぶりは理解したから、ベッドで寝なよ。」
秀樹 「そんなわけにいくかよ。」
亜矢子 「じゃあ、離してあげない。」
秀樹 「おい、悪酔いするなよ。おまえ、やっぱり変だぞ。」
亜矢子 「変じゃないもん。」
秀樹 「わかった、わかった。ベッドで寝るから、手を離してくれ。」
亜矢子が手を離すと、秀樹はすばやく隣のベッドに乗っかる。
秀樹 「(しばらくして、)彼氏から電話があったのか?」
亜矢子 「(反対側を向き、)なんか怒っているみたい。」
秀樹 「やっぱり今回の旅行、まずかったな。」
亜矢子 「『別れよう』、だって。」
秀樹 「別れ……。」
亜矢子 「(また秀樹の方を向き、両手を伸ばす。)こっち来て。」
秀樹 「こっち来てったって。」
亜矢子 「いいから、抱いてよ。」
秀樹 「何を言って……。」
亜矢子 「もう、女の子にこれ以上恥ずかしいことを言わせないでよ。お願い。」
秀樹はブツブツ言いながら亜矢子のベッドに移る。二人はしばらく無言。秀樹は意を決して亜矢子を強く抱き、布団の外に亜矢子の服を一枚一枚放り投げる。自分の服もすっかり投げ捨てると、キスする。その時、亜矢子の携帯が鳴り出す。亜矢子は腕を伸ばして携帯を取る。
亜矢子 「もしもし……。ああ、何よ。……ちょっと待ってよ。別れるって言ったじゃない。あなたの方が……。もう、どういうつもりよ。」
亜矢子は、毛布をまとって、ベッドから降り、カーペットの上で長い電話をする。秀樹はパジャマを着て、自分のベッドに戻る。電話が終わると、亜矢子も毛布の中にパジャマをたぐり寄せ、着終わると、自分のベッドに入り、ライトもすっかり落とす。
秀樹 「よかったじゃないか、仲直りできたんだろ。」
亜矢子 「秀樹、ごめんね。」
秀樹 「いいんだよ。これで。こういう規定だったんだから、これでよかったんだよ。」
亜矢子 「うん。ありがとう。」
秀樹 「おやすみ。」
亜矢子 「おやすみなさい。」