シナリオ
13
亜矢子の不思議な話
亜矢子は秀樹の顔を見ると安心した。そして、真剣な表情で秀樹に質問した。「ねぇ、秀樹。私、寝ながら何か言っていなかった?」
「歩夢さんの名前を呼んでいるようだったよ。「アユム」ってつぶやいたかと思ったら突然ぱっと目を覚ましたんだ」
「私、あの人が今にもピストルでうたれそうになっている夢を見たのよ」
秀樹は亜矢子をまじまじと見つめた。
「本当かよ? 俺も同じ夢を見たんだぜ」
「やっぱり!」
彼女は目を見開いて、妙に納得した様子だった。
「やっぱりって、どういう意味だよ?」
亜矢子はちらっと彼の目を見たが、ちょっと恥ずかしそうに目を伏せた。
「どうせ笑うから、言わない」
「俺は笑ったりはしないよ」
亜矢子は秀樹をじっと見詰めた。「すごく変な話だよ」
「真面目に聞くから話してみてくれよ」
秀樹の目にからかいの色が浮かんでいないので、彼女は素直に話すことにした。
「私ね、普通の人にはない感覚があるみたいなの。未来に起こることを夢に見るの。本当に何か大変なことが起こるかもしれないわ」
秀樹は真剣な表情で亜矢子を見つめた。
「じゃあ、歩夢さんがピストルで撃たれるということが現実に起こるというのか?」
「そういうことはあり得るわ」
秀樹はしばらく亜矢子の目を見つめて考えた。
「俺が同じ夢を見たのはどういうわけなんだろう?」
「そういうこともないことはないの。修学旅行で一緒の部屋に泊まった友達が、私と同じ夢を見たこともあるのよ」
「ということは、おまえの見ていた夢を俺が見ていたって言うのかい? そんなことがあるんだろうか?」
「ラジオにたとえると、脳波が私と同じ周波数になって夢を受信したということになるでしょうね」
秀樹はしばらくの間黙り込んだ。
亜矢子はたまりかねて口を開いた。
「秀樹、私の話、信じてくれた?」
秀樹はおやっと思って、亜矢子を正面からのぞきこんだ。彼女は常に快活で力がみなぎっていて、心細い表情を見せることはめったにない。秀樹は優しい気持ちになった。
「よくわからないところもあるけど、おまえの表情は真剣そのものだ。信じるよ」
亜矢子は、あごを少し上げて、口元を緩めた。だが、またすぐに緊張した面持ちで意見を言い、秀樹の決断を迫った。
「ねぇ、歩夢さん、危ないよ。とても危険。秀樹、探そう」
空港のカフェテリアで、あの人相の悪い男を見た歩夢が急に立ち去ったことが、妙に気になってきた。視線をやってみたら、あの男は席にいなかった。無性に胸騒ぎがしてきた。
「よし」
彼が立ち上がると、亜矢子もさっと立ち上がった。二人は、飛行機の中をゆっくりと調べた。しかし、歩夢の危機一髪シーンの現場を取り押さえることはできなかった。
二人の捜査員が鋭い目つきで自分たちの席の近くまで戻ってくると、例の人相の悪い男がスクリーンに映し出されている『隣りのととろ』を目を輝かして見ていた。そして信じられないことに、男の隣には、小さくなって眠っている歩夢がいた。
二人は顔を見合わせた。
「一体どういうことだ?」
「さぁ?」