シナリオ

21
栄治はキャビネットからしゃもじぐらいの大きさの道具を取り出した。
次に彼は、亜矢子に実験台に横たわるよう、手で合図をした。
亜矢子はビキニ姿で、診察台のようなものに仰向けに横たわった。
栄治は亜矢子の側面に立ち、しゃもじのようなものを肌に近づけた。しかし、『ハッチク』が体に触れる寸前に手を止めて観客の方を振り向いた。
「あ、そうそう、その前にこの中の蓄電池がからっぽであることを確認していただきましょう」
彼は『ハッチク』から蓄電池を取り出し、キャビネットに乗せてあった時計に取り付け、観客に見せた。時計の秒針は確かに止まったままであった。
「よろしいですか? 確かにこの蓄電池は空っぽですね。では、これから、蓄電を開始します」
彼は、『ハッチク』に蓄電池を仕込み、亜矢子の体へ近づけた。上品なシルバーの、小動物を思わせるその器械が彼女の腹部に当たるのを、観客は息を呑んで見守った。へそのあたりから首のあたりまで、栄治は、さーっと器械を滑らせた。まるで亜矢子の美しい肌をいとおしむように。
「御覧いただけましたか。操作はこれだけです。人体でもなんでも、こすっているうちに、発生した静電気がこの器械の中の蓄電池に溜まっていくという仕組みです。なぜ美女を実験台にしたのか?」栄治は効果を計るように間を置いた。「そうしなければ盛り上がりませんので」
観客はどよめいた。
栄治は亜矢子に話し掛けた。
「器械でこすられて不快ではなかったですか?」
亜矢子は横たわったまま、栄治の近づけたマイクに向かって話した。
「いえ、少しも不快感はないです」
それを聞いて栄治はにっこりして、また亜矢子の白い肌に器械を滑らせた。美しく光を反射させる小さな器械が、細くしなやかな腕や腹や脚を這い回るのを、観客は食い入るように見つめた。
栄治がにこにこしながら器械で亜矢子の体中を撫でまわしているのを、秀樹は無性に腹立たしい思いで見ていなければならなかった。
「亜矢子に特別な感情を持たないはずなのに、なぜ胸が焦げつくように熱いのか。確かに栄治のような虫のすかない男に、自分のよく知っている女をいいように扱われてみれば、誰だっていやな感じがするだろう。しかし、この妙な胸苦しさは果たしてそれだけが原因だと決めつけてしまえるものだろうか?」
しばらくすると、栄治は亜矢子の体を撫で回すのをやめ、観客に向かってしゃべりだした。
「この実験は大成功です。この製品は二つの機能を備えています。一方では大量の静電気を発生させ、一方では発生させた大量の静電気を蓄電器に吸い取るのです。もし、この器械に蓄電機能が備わっていなかったら、彼女はこんな安心しきった表情で、笑顔まで見せて、今のようなコメントをすることはありえないでしょう。この器械にこすられた彼女の体表で発生する静電気は実に大量で、ラットであれば、ショックのあまりしばらくの間体を痛撃させたまま身動きすることができないでしょう。人間の体でもし試すことができるならば、きっと海水浴でくらげに刺される時のショックの軽く十倍程度の衝撃を受けるはずです。今彼女がそれをまったく感じなかったのは、発生した大量の静電気を蓄電器が即座に吸い取ってしまったためです。このような大電力の静電気を人為的に発生させ、それを直ちに電池に蓄えることによって、実用に耐えうる電力を確保することができるというわけです。では、電気が溜まったかどうか、先程の時計で試してみましょう」
栄治は、『ハッチク』から取り出した電池を時計に入れ、高く持ち上げた。時計の秒針が静かに動き始めた。観客はみな嘆息を漏らした。
栄治は満足そうな顔でキャビネットから布切れを取り出した。
観客たちはもうすっかり、壇上の科学者の一挙手一投足に視線を集中しきっていた。
次に彼は、亜矢子に実験台に横たわるよう、手で合図をした。
亜矢子はビキニ姿で、診察台のようなものに仰向けに横たわった。
栄治は亜矢子の側面に立ち、しゃもじのようなものを肌に近づけた。しかし、『ハッチク』が体に触れる寸前に手を止めて観客の方を振り向いた。
「あ、そうそう、その前にこの中の蓄電池がからっぽであることを確認していただきましょう」
彼は『ハッチク』から蓄電池を取り出し、キャビネットに乗せてあった時計に取り付け、観客に見せた。時計の秒針は確かに止まったままであった。
「よろしいですか? 確かにこの蓄電池は空っぽですね。では、これから、蓄電を開始します」
彼は、『ハッチク』に蓄電池を仕込み、亜矢子の体へ近づけた。上品なシルバーの、小動物を思わせるその器械が彼女の腹部に当たるのを、観客は息を呑んで見守った。へそのあたりから首のあたりまで、栄治は、さーっと器械を滑らせた。まるで亜矢子の美しい肌をいとおしむように。
「御覧いただけましたか。操作はこれだけです。人体でもなんでも、こすっているうちに、発生した静電気がこの器械の中の蓄電池に溜まっていくという仕組みです。なぜ美女を実験台にしたのか?」栄治は効果を計るように間を置いた。「そうしなければ盛り上がりませんので」
観客はどよめいた。
栄治は亜矢子に話し掛けた。
「器械でこすられて不快ではなかったですか?」
亜矢子は横たわったまま、栄治の近づけたマイクに向かって話した。
「いえ、少しも不快感はないです」
それを聞いて栄治はにっこりして、また亜矢子の白い肌に器械を滑らせた。美しく光を反射させる小さな器械が、細くしなやかな腕や腹や脚を這い回るのを、観客は食い入るように見つめた。
栄治がにこにこしながら器械で亜矢子の体中を撫でまわしているのを、秀樹は無性に腹立たしい思いで見ていなければならなかった。
「亜矢子に特別な感情を持たないはずなのに、なぜ胸が焦げつくように熱いのか。確かに栄治のような虫のすかない男に、自分のよく知っている女をいいように扱われてみれば、誰だっていやな感じがするだろう。しかし、この妙な胸苦しさは果たしてそれだけが原因だと決めつけてしまえるものだろうか?」
しばらくすると、栄治は亜矢子の体を撫で回すのをやめ、観客に向かってしゃべりだした。
「この実験は大成功です。この製品は二つの機能を備えています。一方では大量の静電気を発生させ、一方では発生させた大量の静電気を蓄電器に吸い取るのです。もし、この器械に蓄電機能が備わっていなかったら、彼女はこんな安心しきった表情で、笑顔まで見せて、今のようなコメントをすることはありえないでしょう。この器械にこすられた彼女の体表で発生する静電気は実に大量で、ラットであれば、ショックのあまりしばらくの間体を痛撃させたまま身動きすることができないでしょう。人間の体でもし試すことができるならば、きっと海水浴でくらげに刺される時のショックの軽く十倍程度の衝撃を受けるはずです。今彼女がそれをまったく感じなかったのは、発生した大量の静電気を蓄電器が即座に吸い取ってしまったためです。このような大電力の静電気を人為的に発生させ、それを直ちに電池に蓄えることによって、実用に耐えうる電力を確保することができるというわけです。では、電気が溜まったかどうか、先程の時計で試してみましょう」
栄治は、『ハッチク』から取り出した電池を時計に入れ、高く持ち上げた。時計の秒針が静かに動き始めた。観客はみな嘆息を漏らした。
栄治は満足そうな顔でキャビネットから布切れを取り出した。
観客たちはもうすっかり、壇上の科学者の一挙手一投足に視線を集中しきっていた。