シナリオ

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22

 栄治は亜矢子に布切れを渡し、身につけるように言った。
 彼女は立ち上がって、それをすばやく身につけた。丈の短いオレンジ色のタンクトップと、大胆なカットの同じ色のショートパンツだった。ビキニ姿に比べれば肌の隠れる面積は増えたが、これはこれで女性の肉体美を強調する結果となった。そのうえ栄治の指示で亜矢子は軽い運動をすることになり、彼女が屈伸したり腰を回したりするたびに、彼女のボディーラインはさらに際立ち、男たちの視線をくぎづけにした。この衣装はどちらかというと運動には向いていなかった。それでいて運動をさせられるのだから、見ている者はドキドキさせられるはずなのであった。
 亜矢子が運動を続けている横で、栄治は観客に向かって説明した。
 「さきほどの彼女のビキニをみなさんは覚えていらっしゃいますか? えっ、忘れたくても忘れられないですって? そうですよね。彼女のビキニは素晴らしかったですね。というより、体の方が、ですね?」
 観客は沸いた。
 「みなさん、私のことをいかがわしい男だと、誤解なさってはいないでしょうね? そりゃあ、やっぱり、こういう機会ですから、多少エンターテイメントの要素は演出しましたよ。別に、皆さんの目を引くような格好をさせる必然性はないわけですものね。まあ、それはサービスです。でも、それだけではないのです。あのビキニと、今御覧いただいているこの衣装は、やっぱり意味があるのです。もっとも形態にはあまり重要な意味はありませんが」
 観客はまた大笑いした。
 「実は、彼女が身につけているビキニは非常に静電気を発生させやすい素材で作られているのです。それから、このオレンジ色の服は、何とこれ自体が蓄電器になっているのです」
 観客はどよめいた。
 「彼女が体を動かしている間中ずっと、二種類の布地が摩擦を起こし、方や大量の静電気を発生させ、方や発生した電気を蓄えるという仕組みなのです。蓄電する布地は、一本一本の繊維が蓄電池になっています。言い換えれば、繊維状の電池なのです。でも、体にはまったく危険はありません。それは考えれば当然のことと首肯されるはずです。みなさんの日常の感覚で納得することができるはずです。だって、そうでしょう? 私たちは、普段乾電池をこわごわと扱ったりはしませんよね? その辺に転がしておいた電池にたとえうっかり触ったとしても、感電することはないということを体で知っています。この服もそれと同じであります。洗濯も普通にできます。そして、すごいのはこれです」
 栄治は、亜矢子のタンクトップの裾の内側から紐のようなものを引っぱり出した。
 「見えますか? 端子です」
 彼はその端子をキャビネットの上にある小さな箱のような装置に差し込んだ。
 「こうやってこの装置に接続すると、電気を移すことができます。仕事から帰って着替える時に、蓄電スーツを一枚ずつこの装置に接続するのです。この装置に蓄えられた電気はある一定の量を超えると、家庭用電源として普通に使用することができます」
 見学者たちが声も上げずに驚嘆していると、「それでは、本日の公開実験は終了させていただきます。云々」と挨拶をして、栄治と亜矢子は退場した。
 秀樹は会場内を見回した。壁面にはたくさんの広告が貼りめぐらされていた。忙しそうに働いているスタッフたちはロゴの入ったおそろいのスタジャンを着ていた。
 場内放送が入り、発表された製品の販売が早速始まった。陳列棚の周囲は黒山の人だかりとなった。
 秀樹がぽかんとしてその光景を眺めていると、栄治と亜矢子が、ロゴの入ったスタジャンを着た女性と一緒にやってきた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 シナリオ
◆ 執筆年 2010年5月16日