シナリオ

64
矢がどんどん飛んできて、兵士が倒れていくので、秀樹は急いだ。彼は先ほどよりももっと気力を集中させた。慣れてきたせいか、新しく生み出された軍勢は前よりもリアリティーが感じられた。秀樹の軍勢は弓を引き絞り、一斉に征矢を射た。今度は敵の鎧を突き破って致命傷を与えた。歩夢の軍勢が多少ではあるが崩れた。
「やった!」と、麻衣は小躍りした。
亜矢子は、「まさか」と思わず口に出した。今の攻撃が秀樹のものとは到底信じられなかった。守護霊を見る能力のない者が、歩夢に一撃を加えられるはずはない。ということは、秀樹に力があるということか、それとも尋常ではない努力をしたということか、どちらかであろう。彼に力があるはずはない。だとしたら、死をも恐れぬ奮戦をした以外には考えられないのだ。
「はっ、秀樹が危ない」と思った亜矢子は、すぐに駆け寄った。
秀樹はなんでもない様子で、「よーし、もう一丁やってやるか」などと、元気よく振舞っていたが、次の瞬間、突然その場に崩れ、意識を失った。亜矢子が駆け寄ったのは、その直後であった。「キャー!」と、麻衣が金切り声を上げた。
「秀樹、秀樹、しっかりして」と、亜矢子は秀樹の頭を膝に抱き、揺り動かした。秀樹が目をゆっくりと開いた。
「どうしたんだろう、俺。急にめまいがして、全身の力が抜け落ちたんだ」
秀樹は力を振り絞って起き上がろうとしたが、ピクリとも動かなかった。
「当然よ。霊能力がないのに、あんなにがんばったんだもの。ありがとう。私のためにこれほどがんばってくれるなんて。あなたのおかげで私も考えが変わったわ。私は勝てないと決め付けて、本気で戦うことから逃げていたのだわ。でも、それではいつまでたっても現状から抜け出せない。やっぱり、自分で打開するしかないのね。私、決めたの。絶対にあの人に勝つ。そして、秀樹さんと一緒に暮らす」
亜矢子は決意に満ちた表情で秀樹を見つめた。
「よく言った、亜矢子」
二人が驚いて振り向くと、そこには小柄な老人が立っていた。
「おじいさん!」と、亜矢子はうれしそうに叫んだ。
「え、亜矢子のおじいさんなのか、何でこんな所へ?」と、秀樹は不思議そうにした。
「違うわよ。私の守護霊よ。いつもおじいさんって呼んでいるものだから」
守護霊は穏やかな表情をしていた。しかし、内部に揺るぎないものを持っていることが窺える表情だった。
「歩夢の守護霊にはかなわないから、生涯あの男に仕えるよう、わしは言った。それはうそではない。あの男の守護霊はそれほど強い。しかし、それはおまえの気持ちの弱さがそうさせているともいえる。おまえがしっかりしないならば、あいつには勝てん。だから、わしはおまえがつつがなく生きていけるよう、あいつに逆らうなと言ってきたつもりじゃった。ところが、おまえは運がいいのう。強運の男がおまえについた。秀樹さんがおまえの目を開かせた。おまえがその気になれば、歩夢にかなわないことはないのだ。思い切りやってみなさい」
亜矢子は守護霊の言葉を聞くうちに勇気が湧いてきた。秀樹と暮らしたい。歩夢なんか、もう二度と見たくない。そういう切実な思いで胸がいっぱいになった。
「よし、やるよ。やってみるよ。おじいさん、秀樹さん、必ず勝つから、見ていてね」
亜矢子の表情は明らかに変化した。秀樹は、亜矢子の守護霊に礼を言おうと思った。しかし、振り向くと、もはや影も形もなかった。秀樹は仕方なく心の中で礼を言った。
亜矢子は皮を二枚も三枚も脱ぎ捨てたようだった。旅行に行ったころの、明るさに満ち溢れていた亜矢子が戻ってきた。
亜矢子はうつむいた姿勢でなくても、集中力を高めることができた。アニメ番組の魔法使いの少女が呪文をとなえるときのように、胸をそらして、片手を挙げて、指をまっすぐ立てた。指の先から稲妻が飛び、歩夢の軍勢の上に勢いよくたたきつけられた。鉄砲隊も騎馬部隊も壊滅的な打撃を受けた。
今度は亜矢子は自分の部隊の方を向いて、オーケストラの指揮者のように両手を動かして、気のようなものを振り撒いた。すると、武士団は力強く立ち上がり、頼もしい顔つきで陣形を整えた。歩兵は刀を振りかざして駆け出した。騎馬部隊は一斉に矢を番え、狙いを定めた。
鋭い音を伴って矢が飛び、敵軍にことごとく突き刺さった。そこへ歩兵が切りかかる。歩夢の軍勢は壊滅的な打撃を受けた。
それまでひたすらうつむいて集中力を高めていた歩夢は奇声を発して立ち上がると、足元をふらつかせながら亜矢子をにらんだ。
「そんな馬鹿な。おまえが俺に勝てるはずはないのだ。……。しかし、俺の力がこれだけだと思ったら、大間違いだぞ。よし、見てろよ」
面と向かって言われると、やはり亜矢子はひるまずにはいられなかった。しかし、彼女は昨日までの彼女ではなかった。
「亜矢子、気にするな。あいつは強がりを言っているだけだ。今までは、おまえはかなわないと思いこんでいただけなんだ。人は、自分がそうしたいと思ったときは、できないと思うことでも乗り越えられるものなんだ。大丈夫だ。俺がついている。思う存分に戦ってみろ」
亜矢子はうなずいた。
「やった!」と、麻衣は小躍りした。
亜矢子は、「まさか」と思わず口に出した。今の攻撃が秀樹のものとは到底信じられなかった。守護霊を見る能力のない者が、歩夢に一撃を加えられるはずはない。ということは、秀樹に力があるということか、それとも尋常ではない努力をしたということか、どちらかであろう。彼に力があるはずはない。だとしたら、死をも恐れぬ奮戦をした以外には考えられないのだ。
「はっ、秀樹が危ない」と思った亜矢子は、すぐに駆け寄った。
秀樹はなんでもない様子で、「よーし、もう一丁やってやるか」などと、元気よく振舞っていたが、次の瞬間、突然その場に崩れ、意識を失った。亜矢子が駆け寄ったのは、その直後であった。「キャー!」と、麻衣が金切り声を上げた。
「秀樹、秀樹、しっかりして」と、亜矢子は秀樹の頭を膝に抱き、揺り動かした。秀樹が目をゆっくりと開いた。
「どうしたんだろう、俺。急にめまいがして、全身の力が抜け落ちたんだ」
秀樹は力を振り絞って起き上がろうとしたが、ピクリとも動かなかった。
「当然よ。霊能力がないのに、あんなにがんばったんだもの。ありがとう。私のためにこれほどがんばってくれるなんて。あなたのおかげで私も考えが変わったわ。私は勝てないと決め付けて、本気で戦うことから逃げていたのだわ。でも、それではいつまでたっても現状から抜け出せない。やっぱり、自分で打開するしかないのね。私、決めたの。絶対にあの人に勝つ。そして、秀樹さんと一緒に暮らす」
亜矢子は決意に満ちた表情で秀樹を見つめた。
「よく言った、亜矢子」
二人が驚いて振り向くと、そこには小柄な老人が立っていた。
「おじいさん!」と、亜矢子はうれしそうに叫んだ。
「え、亜矢子のおじいさんなのか、何でこんな所へ?」と、秀樹は不思議そうにした。
「違うわよ。私の守護霊よ。いつもおじいさんって呼んでいるものだから」
守護霊は穏やかな表情をしていた。しかし、内部に揺るぎないものを持っていることが窺える表情だった。
「歩夢の守護霊にはかなわないから、生涯あの男に仕えるよう、わしは言った。それはうそではない。あの男の守護霊はそれほど強い。しかし、それはおまえの気持ちの弱さがそうさせているともいえる。おまえがしっかりしないならば、あいつには勝てん。だから、わしはおまえがつつがなく生きていけるよう、あいつに逆らうなと言ってきたつもりじゃった。ところが、おまえは運がいいのう。強運の男がおまえについた。秀樹さんがおまえの目を開かせた。おまえがその気になれば、歩夢にかなわないことはないのだ。思い切りやってみなさい」
亜矢子は守護霊の言葉を聞くうちに勇気が湧いてきた。秀樹と暮らしたい。歩夢なんか、もう二度と見たくない。そういう切実な思いで胸がいっぱいになった。
「よし、やるよ。やってみるよ。おじいさん、秀樹さん、必ず勝つから、見ていてね」
亜矢子の表情は明らかに変化した。秀樹は、亜矢子の守護霊に礼を言おうと思った。しかし、振り向くと、もはや影も形もなかった。秀樹は仕方なく心の中で礼を言った。
亜矢子は皮を二枚も三枚も脱ぎ捨てたようだった。旅行に行ったころの、明るさに満ち溢れていた亜矢子が戻ってきた。
亜矢子はうつむいた姿勢でなくても、集中力を高めることができた。アニメ番組の魔法使いの少女が呪文をとなえるときのように、胸をそらして、片手を挙げて、指をまっすぐ立てた。指の先から稲妻が飛び、歩夢の軍勢の上に勢いよくたたきつけられた。鉄砲隊も騎馬部隊も壊滅的な打撃を受けた。
今度は亜矢子は自分の部隊の方を向いて、オーケストラの指揮者のように両手を動かして、気のようなものを振り撒いた。すると、武士団は力強く立ち上がり、頼もしい顔つきで陣形を整えた。歩兵は刀を振りかざして駆け出した。騎馬部隊は一斉に矢を番え、狙いを定めた。
鋭い音を伴って矢が飛び、敵軍にことごとく突き刺さった。そこへ歩兵が切りかかる。歩夢の軍勢は壊滅的な打撃を受けた。
それまでひたすらうつむいて集中力を高めていた歩夢は奇声を発して立ち上がると、足元をふらつかせながら亜矢子をにらんだ。
「そんな馬鹿な。おまえが俺に勝てるはずはないのだ。……。しかし、俺の力がこれだけだと思ったら、大間違いだぞ。よし、見てろよ」
面と向かって言われると、やはり亜矢子はひるまずにはいられなかった。しかし、彼女は昨日までの彼女ではなかった。
「亜矢子、気にするな。あいつは強がりを言っているだけだ。今までは、おまえはかなわないと思いこんでいただけなんだ。人は、自分がそうしたいと思ったときは、できないと思うことでも乗り越えられるものなんだ。大丈夫だ。俺がついている。思う存分に戦ってみろ」
亜矢子はうなずいた。