あなたに夢中
3
「温子さんは知らないさ」龍一は、なぜか楽しそうな顔になった。「温子さんを驚かしてやるんだ」
「えっ、あっちゃん知らないの? じゃあ、もし、予定とか入ってたらどうすんの?」
「そんなことないさ」
龍一の声は不機嫌そうだった。
「おまえ、それって強引じゃ……」
真貴の言葉は、龍一の鋭い目つきと言葉にさえぎられた。
「温子さんは行くよ。おれは彼女のことをよくわかってるんだ。温子さんが見たいはずのものをおれはよくわかるのさ」
龍一が激してくると、真貴は閉口してしまう。でも、真貴はこれだけは言ってやらなくてはと思う。
「わかったよ。だけど龍一、あっちゃんに何日も音信不通ってのはよくないと思うぜ」
龍一は率直に申し訳なさそうな顔をした。
「悪いと思っている。仕方なかったんだ」そして少し不審そうな顔をして、ためらいながら続けた。「なんでおまえが温子さんの部屋にいたんだ?」
「相談に乗ってたんだ。あっちゃん、すごく落ちこんでいたんだ」
龍一の表情がまた暗く、そして声が激してきた。
「おまえに相談しなければならなかったのか?」
「おまえがどうしているか、おれにきけばわかると思ったんだろ? おまえが音信不通だったからいけないんじゃないか。おれだって忙しいのに、相談相手になったんだぞ。感謝しろ。感謝」
龍一はまだ疑わしげな目を真貴に向けていた。
「おまえ、なんだよその疑わしげな目は。あっちゃんのことをなんでもわかってるんなら、なにも心配はない。そうだろ?」
龍一はゆっくり二度、肯いてみせた。声が穏やかになっていた。
「ひまわりのこと、言わないでくれよ」
「言わないよ。そんなこと」
あと十五分で講義が終わる。約束の時間まで二時間ある。
アパートの玄関をあけると、靴脱ぎ場になっている。置いてあるいくつかの靴を小さなシューズ・ボックスに整理した。小さなダイニング兼キッチンに秩序を乱すものはなにもない。小さなキャスター付きのキッチン・テーブルのうえに乗った買い物袋ぐらいだ。それもほどなく、秩序を愛するこの部屋の主人によって、冷蔵庫にしまい込まれた。
「シーツを替えとこう」
「えっ、あっちゃん知らないの? じゃあ、もし、予定とか入ってたらどうすんの?」
「そんなことないさ」
龍一の声は不機嫌そうだった。
「おまえ、それって強引じゃ……」
真貴の言葉は、龍一の鋭い目つきと言葉にさえぎられた。
「温子さんは行くよ。おれは彼女のことをよくわかってるんだ。温子さんが見たいはずのものをおれはよくわかるのさ」
龍一が激してくると、真貴は閉口してしまう。でも、真貴はこれだけは言ってやらなくてはと思う。
「わかったよ。だけど龍一、あっちゃんに何日も音信不通ってのはよくないと思うぜ」
龍一は率直に申し訳なさそうな顔をした。
「悪いと思っている。仕方なかったんだ」そして少し不審そうな顔をして、ためらいながら続けた。「なんでおまえが温子さんの部屋にいたんだ?」
「相談に乗ってたんだ。あっちゃん、すごく落ちこんでいたんだ」
龍一の表情がまた暗く、そして声が激してきた。
「おまえに相談しなければならなかったのか?」
「おまえがどうしているか、おれにきけばわかると思ったんだろ? おまえが音信不通だったからいけないんじゃないか。おれだって忙しいのに、相談相手になったんだぞ。感謝しろ。感謝」
龍一はまだ疑わしげな目を真貴に向けていた。
「おまえ、なんだよその疑わしげな目は。あっちゃんのことをなんでもわかってるんなら、なにも心配はない。そうだろ?」
龍一はゆっくり二度、肯いてみせた。声が穏やかになっていた。
「ひまわりのこと、言わないでくれよ」
「言わないよ。そんなこと」
あと十五分で講義が終わる。約束の時間まで二時間ある。
アパートの玄関をあけると、靴脱ぎ場になっている。置いてあるいくつかの靴を小さなシューズ・ボックスに整理した。小さなダイニング兼キッチンに秩序を乱すものはなにもない。小さなキャスター付きのキッチン・テーブルのうえに乗った買い物袋ぐらいだ。それもほどなく、秩序を愛するこの部屋の主人によって、冷蔵庫にしまい込まれた。
「シーツを替えとこう」