あなたに夢中

ひまわり
prev

10

 ポテトチップやチーズとかを買いこみ、温子の部屋に行った。あり合わせで早めの夕飯を食べ、ビールを飲みポテトチップとかをつまみながら、寄り添って『ひまわり』を見た。見おえると、ふたりの両頬に涙の筋がついていた。ふたりはお互いの顔を見て、笑いあった。龍一は温子を抱きしめた。
「おれはひまわりの呪いにかからないよ」
温子は龍一の頭にしがみついた。長いキスをした。唇の感覚が変になるほどだった。龍一は服を脱がそうとした。
「わたしのことを大切にしてくれるの?」
 温子の目は怖いほど真剣だった。龍一は真面目にうなずいた。
「わたしのことを軽く見ると、温子の呪いにかかるよ」
 その言い方に凄味があって、龍一の背筋はかなりひやっとした。
「ほんとうに大切にするさ」
 温子は無言でベッドにあがって、髪をほどいた。
 龍一がワンピースのファスナーをおろしはじめると、温子はするっとベッドから降りた。
「ごめん、シャワー浴びてもいい? わたしのあとに龍一君も浴びたら?」
 龍一は間抜けな顔で温子の背中を見た。
 温子はシャワーを簡単に浴びた。待っている龍一の顔を思い浮かべた。ベッドにもどると龍一が横たわっていた。
「シャワー浴びてきたら」
「うん」
 Tシャツと短パン姿の温子を龍一は見た。龍一はジーンズとポロシャツだった。温子はシャワーの使い方を教えた。バスタオルを出してあげた。ベッドに横たわると龍一が付けているムースの香りがした。龍一はもどってくるとライトをつけた。
「だめ」温子は消した。
「だって」龍一はつけたがった。
「じゃあ、小さいのにして」
 龍一はそうした。それでも温子は恥ずかしかった。そして、怖かった。龍一はあまり慣れている感じではなかった。初めてだから、ほんとうに優しくしてねと言うと、龍一はできるだけ丁寧にしていたが、それでも怖くて仕方なかった。緊張したり、ほっとしたりの繰り返しで、あまり気持ちのよいものではなかった。龍一が寝たあと、目がさえてなかなか眠れなかった。龍一といつまでもいっしょにいたいと思った。でも、彼もそう思ってくれているのか心配だった。しかし、心配しても仕方ないことだった。民主主義の世の中であろうが、合理的な社会であろうが、運命はどうにもならないのだ。自分はどんな運命を生きるんだろう? それを考えると怖かった。
 その翌日から十日間、龍一は連絡をよこさなかった。
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 あなたに夢中
◆ 執筆年 2000年8月6日