あなたに夢中

12
「そうか」
龍一は、しみじみと考えこんだ。
温子は龍一の目をのぞきこんで、その茶色い瞳が少なからず反省の色を帯びているのを見て、ぴったりと体を寄せた。
龍一は「心配させてごめんね」と低くつぶやいた。
温子はぎゅっと抱きしめた。
朝、目が覚めた龍一はコーヒーの香りをかいだ。温子がベージュのエプロンをつけてキッチンに立っていた。小さなダイニングに小さな丸いテーブルと椅子があり、カップがふたつ並んでいた。コーヒー豆の缶の口があいていたのを、龍一は閉めた。手まわしのミルがそばにあった。コーヒー豆を挽いた香りがまだしていた。鼻の奥に香ばしさがはりつくようだ。
コーヒーを飲みながら龍一が話を切りだした。
「温子さん、夏休みに北海道行かない?」
「うわ、すごい」
「見てこれ」
龍一はフェリーのチケットを二枚見せた。
「買っちゃったの?」
龍一はうれしそうにうなずいた。
「見せて」
温子の表情が曇った。龍一の表情も曇った。
「もしかしてだめなの?」
温子は一語一語たしかめるようにして言った。
「そういうわけじゃないけど。……考えておくわ」
温子はチケットをそのまま返した。わたしは行けないのと言われているみたいで、かちんときた。
「考えておく? そんなのだめだよ。なんとか都合つけられないのかい?」
温子は眉をひそめた。
「だから考えさせてって言ってるでしょ。だめだとは言ってないじゃない」
「いつまで」と龍一はたたみこんだ。
「しばらく」それから温子は少しだけ声をとがらせて続けた。「だいたい龍一君がわたしに相談しないで買っちゃうのがいけないのよ。なんとか都合つけるようにするから、二、三日待っててね」
龍一は、しみじみと考えこんだ。
温子は龍一の目をのぞきこんで、その茶色い瞳が少なからず反省の色を帯びているのを見て、ぴったりと体を寄せた。
龍一は「心配させてごめんね」と低くつぶやいた。
温子はぎゅっと抱きしめた。
朝、目が覚めた龍一はコーヒーの香りをかいだ。温子がベージュのエプロンをつけてキッチンに立っていた。小さなダイニングに小さな丸いテーブルと椅子があり、カップがふたつ並んでいた。コーヒー豆の缶の口があいていたのを、龍一は閉めた。手まわしのミルがそばにあった。コーヒー豆を挽いた香りがまだしていた。鼻の奥に香ばしさがはりつくようだ。
コーヒーを飲みながら龍一が話を切りだした。
「温子さん、夏休みに北海道行かない?」
「うわ、すごい」
「見てこれ」
龍一はフェリーのチケットを二枚見せた。
「買っちゃったの?」
龍一はうれしそうにうなずいた。
「見せて」
温子の表情が曇った。龍一の表情も曇った。
「もしかしてだめなの?」
温子は一語一語たしかめるようにして言った。
「そういうわけじゃないけど。……考えておくわ」
温子はチケットをそのまま返した。わたしは行けないのと言われているみたいで、かちんときた。
「考えておく? そんなのだめだよ。なんとか都合つけられないのかい?」
温子は眉をひそめた。
「だから考えさせてって言ってるでしょ。だめだとは言ってないじゃない」
「いつまで」と龍一はたたみこんだ。
「しばらく」それから温子は少しだけ声をとがらせて続けた。「だいたい龍一君がわたしに相談しないで買っちゃうのがいけないのよ。なんとか都合つけるようにするから、二、三日待っててね」