あなたに夢中

13
龍一はむっつりとして温子の部屋を出た。
(あっちゃんの予定を考えに入れたのか?)
急に真貴の声がよみがえってきた。わかったよ。おまえの言うとおりだよ。
二日後、龍一は微分積分の講義で真貴といっしょになった。
「定積分の公式を使えばいいですね。インテグラルaからxというのは、ふたつにわければいいんです。すなわち、インテグラル0からx、マイナス、インテグラル0からa、とこうなります。そういうわけで」
龍一は微積が得意である。本当は理学部の数学科を目指していたが、だめそうだったので経済に転向した。数学の得意な人間は、銀行や保険会社などで優遇される、なんていううわさを真に受けて、思いきって鞍替えしたのだった。
「あっちゃん、北海道に行けるってよ」
真貴は開口一番、龍一にそう告げた。
「なんでおまえが知ってるんだ?」
龍一はあからさまに不満な様子を見せた。
「おまえ。礼ぐらい言えよ。おまえのアパートの電話は通じにくいから、律子経由で伝言が回ってきたんだよ」
龍一は不審げな顔のまま礼を言った。
「おまえ。まだそんな顔してる。まったく友達がいのないやつだ」
講義が終わり、真貴が龍一の胴に腕をまわし、学食に向かって歩きだした。
「おい、今日おごれよな。あっちゃんの伝言持ってきたんだから」
龍一は暗い顔で言った。
「馬鹿言うな。おれは部屋で食べるよ」
真貴は帰ろうとする龍一をがっしりつかんで、学食の自動ドアに立った。
「冗談だよ。おごらなくていいから、いっしょに食べようよ」
「ほんとうに今日はいいよ。次の講義のテキストを忘れたからどうせ取りにもどらなくちゃならないし」
真貴は龍一の目を見て、「わかった。また今度いっしょに食べよう」と言い、龍一の腕を離すと、別の知り合いに話しかけた。
雲がほとんどなく朝から暑かった。でも、夏休みは始まったばかりだし、これから海に行くと思うと暑さなどどうでもよかった。しかも北海道の海だ。暑さとは無縁の世界に思えた。
(あっちゃんの予定を考えに入れたのか?)
急に真貴の声がよみがえってきた。わかったよ。おまえの言うとおりだよ。
二日後、龍一は微分積分の講義で真貴といっしょになった。
「定積分の公式を使えばいいですね。インテグラルaからxというのは、ふたつにわければいいんです。すなわち、インテグラル0からx、マイナス、インテグラル0からa、とこうなります。そういうわけで」
龍一は微積が得意である。本当は理学部の数学科を目指していたが、だめそうだったので経済に転向した。数学の得意な人間は、銀行や保険会社などで優遇される、なんていううわさを真に受けて、思いきって鞍替えしたのだった。
「あっちゃん、北海道に行けるってよ」
真貴は開口一番、龍一にそう告げた。
「なんでおまえが知ってるんだ?」
龍一はあからさまに不満な様子を見せた。
「おまえ。礼ぐらい言えよ。おまえのアパートの電話は通じにくいから、律子経由で伝言が回ってきたんだよ」
龍一は不審げな顔のまま礼を言った。
「おまえ。まだそんな顔してる。まったく友達がいのないやつだ」
講義が終わり、真貴が龍一の胴に腕をまわし、学食に向かって歩きだした。
「おい、今日おごれよな。あっちゃんの伝言持ってきたんだから」
龍一は暗い顔で言った。
「馬鹿言うな。おれは部屋で食べるよ」
真貴は帰ろうとする龍一をがっしりつかんで、学食の自動ドアに立った。
「冗談だよ。おごらなくていいから、いっしょに食べようよ」
「ほんとうに今日はいいよ。次の講義のテキストを忘れたからどうせ取りにもどらなくちゃならないし」
真貴は龍一の目を見て、「わかった。また今度いっしょに食べよう」と言い、龍一の腕を離すと、別の知り合いに話しかけた。
雲がほとんどなく朝から暑かった。でも、夏休みは始まったばかりだし、これから海に行くと思うと暑さなどどうでもよかった。しかも北海道の海だ。暑さとは無縁の世界に思えた。