あなたに夢中

14
龍一が車で迎えにきた。今日はサニーだった。板金屋でたまたまあいていたのがサニーだったようだ。丁寧な仕事をすると工場長にほめられていて、小ぎれいに使うので、貸し渋られたことがないそうだ。わたしと付き合ってからは車内の掃除をしてから返すので、なおさらのことだろう、と温子は思った。
温子は大きなバッグをふたつ、トランクに積みこんだ。それからショルダーバッグを持って助手席に座り、バッグからカセットテープを五本出した。薬師丸ひろ子、ユーミン、斉藤由貴、村下孝蔵、岡村孝子。
「もう行かないで、そばにいて、窓のそばで、腕を組んで、雪のような星が降るわ、素敵ね……」
テープにあわせて温子は薬師丸ひろ子の『Woman』を口ずさんだ。龍一は静かに聞いていた。
関越自動車道をひたすら北上した。テープを入れ替えるあいだ以外、温子は地図を見ていた。温子はこつを早く覚え、新潟に着くころにはなかなか優秀なナビゲーターになっていた。
テープを三本ぐらい聞くと、温子は、「龍一君はどういうの聞くの?」ときいた。
龍一のバッグは後部座席に放り投げてあった。温子は龍一に言われたデュラン・デュランを出した。『ハングリー・ライク・ザ・ウルフ』がかかった。
「やだあ、変な声が入ってるよ」
「狼の遠吠えだろう」
「違うよ、女の人の変な声」
「女のほうが飢えているってことじゃないか」
「男の人がそういうイメージを作りたがってるだけでしょ」
夕方、新潟に着いた。街を歩いて鮨を食べた。新潟の魚は新鮮だった。群馬にいると活きのいい魚はあまり食べられない。久しぶりにうまい魚を食べたと、ふたりは思った。
夜、フェリーが出航した。特等の部屋からしばらく灯台の灯りを見ていたが、やがて龍一の手が伸びてカーテンが閉じられた。
「雪のような星が降るわ、素敵ね」と、また温子は細い声で薬師丸ひろ子を口ずさんだ。だけど、すぐやめなければならなかった。
目が覚めるとまぶしかった。カーテンをあけると青い海と空が広がっている。
「コーヒー飲みに行こうよ」と龍一が言った。
温子はノースリーブの青いワンピースに白い帽子をかぶっていた。マリンブルーのヒールとピアスと指輪もつけていた。龍一は牛の絵のTシャツに縦縞の半袖のYシャツを羽織っていた。
温子は大きなバッグをふたつ、トランクに積みこんだ。それからショルダーバッグを持って助手席に座り、バッグからカセットテープを五本出した。薬師丸ひろ子、ユーミン、斉藤由貴、村下孝蔵、岡村孝子。
「もう行かないで、そばにいて、窓のそばで、腕を組んで、雪のような星が降るわ、素敵ね……」
テープにあわせて温子は薬師丸ひろ子の『Woman』を口ずさんだ。龍一は静かに聞いていた。
関越自動車道をひたすら北上した。テープを入れ替えるあいだ以外、温子は地図を見ていた。温子はこつを早く覚え、新潟に着くころにはなかなか優秀なナビゲーターになっていた。
テープを三本ぐらい聞くと、温子は、「龍一君はどういうの聞くの?」ときいた。
龍一のバッグは後部座席に放り投げてあった。温子は龍一に言われたデュラン・デュランを出した。『ハングリー・ライク・ザ・ウルフ』がかかった。
「やだあ、変な声が入ってるよ」
「狼の遠吠えだろう」
「違うよ、女の人の変な声」
「女のほうが飢えているってことじゃないか」
「男の人がそういうイメージを作りたがってるだけでしょ」
夕方、新潟に着いた。街を歩いて鮨を食べた。新潟の魚は新鮮だった。群馬にいると活きのいい魚はあまり食べられない。久しぶりにうまい魚を食べたと、ふたりは思った。
夜、フェリーが出航した。特等の部屋からしばらく灯台の灯りを見ていたが、やがて龍一の手が伸びてカーテンが閉じられた。
「雪のような星が降るわ、素敵ね」と、また温子は細い声で薬師丸ひろ子を口ずさんだ。だけど、すぐやめなければならなかった。
目が覚めるとまぶしかった。カーテンをあけると青い海と空が広がっている。
「コーヒー飲みに行こうよ」と龍一が言った。
温子はノースリーブの青いワンピースに白い帽子をかぶっていた。マリンブルーのヒールとピアスと指輪もつけていた。龍一は牛の絵のTシャツに縦縞の半袖のYシャツを羽織っていた。