あなたに夢中

15
「行く」
温子は龍一の腕にぶらさがった
レストランは混んでいた。ふたりは、ミルクとパンとハムエッグとハッシュド・ポテトをテーブルに運んだ。
「なんで特等なの?」
温子はパンをちぎりながら低い声でたずねた。
「丸一日も船の中で窮屈に過ごしたくないから」
「身分不相応よ」
「いまの日本に身分なんてないよ」
「そうじゃなくて、お金のことよ。特等のぶんを節約すれば向こうで余分に使えるじゃない」
龍一は少しのあいだ目を伏せて、ハッシュド・ポテトをフォークでつついた。
「わたし、そんなにたくさんはお金を持ってないわ」
「お金のことはおれに任せて」
「わたし、対等にしてもらいたいと思ってるの」
「今回は、おれに任せてよ」
温子は心配そうな瞳で龍一を見つめていた。
「まあいいけど」少しおいて続けた。「でもさ、旅行の計画を話してよ。わたし、なにも教えてもらってないよ。北海道に着いたらどこへ行くの? どこに泊まるの? そういうのって、あらかじめ打ち合わせておくんじゃない?」
「楽しみにしていてくれよ」
龍一は、温子がきりきりするのを面白がっているような返事の仕方をした。温子はそれに気づいて、もっと強い言い方をした。
「わたし、けっこう怒っているのよ」
龍一は目を伏せた。頬が少し引きつれた。
コーヒーを飲み干すと、「コーヒー持ってくる」と言って、自分のカップだけ持っていった。
龍一は船室でもなんとなくいたたまれなくなり、ひとりでデッキへ、海と空を眺めに行った。
龍一は、一㎡の中にいた。座った場所がどこかのグループのだれかの席で、居合わせた人たちに謝るということがよくある。一㎡の中にいると他人の気持ちはあまり見えない。自分の気持ちばかり追いまわすことになるのだ。
温子は龍一の腕にぶらさがった
レストランは混んでいた。ふたりは、ミルクとパンとハムエッグとハッシュド・ポテトをテーブルに運んだ。
「なんで特等なの?」
温子はパンをちぎりながら低い声でたずねた。
「丸一日も船の中で窮屈に過ごしたくないから」
「身分不相応よ」
「いまの日本に身分なんてないよ」
「そうじゃなくて、お金のことよ。特等のぶんを節約すれば向こうで余分に使えるじゃない」
龍一は少しのあいだ目を伏せて、ハッシュド・ポテトをフォークでつついた。
「わたし、そんなにたくさんはお金を持ってないわ」
「お金のことはおれに任せて」
「わたし、対等にしてもらいたいと思ってるの」
「今回は、おれに任せてよ」
温子は心配そうな瞳で龍一を見つめていた。
「まあいいけど」少しおいて続けた。「でもさ、旅行の計画を話してよ。わたし、なにも教えてもらってないよ。北海道に着いたらどこへ行くの? どこに泊まるの? そういうのって、あらかじめ打ち合わせておくんじゃない?」
「楽しみにしていてくれよ」
龍一は、温子がきりきりするのを面白がっているような返事の仕方をした。温子はそれに気づいて、もっと強い言い方をした。
「わたし、けっこう怒っているのよ」
龍一は目を伏せた。頬が少し引きつれた。
コーヒーを飲み干すと、「コーヒー持ってくる」と言って、自分のカップだけ持っていった。
龍一は船室でもなんとなくいたたまれなくなり、ひとりでデッキへ、海と空を眺めに行った。
龍一は、一㎡の中にいた。座った場所がどこかのグループのだれかの席で、居合わせた人たちに謝るということがよくある。一㎡の中にいると他人の気持ちはあまり見えない。自分の気持ちばかり追いまわすことになるのだ。