あなたに夢中

ひまわり
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17

 もうひとりの女子は、友だちの中学時代の同級生だった。
 そのころのわたしは、斉藤由貴をよく聞いていた。
「グループで映画を見に行き、さりげなく隣に座った」という『初戀』の歌詞のとおりになった。
 どきどきして、そのときの映画はあまり覚えていない。
 それから、ときどき彼とふたりで映画を見たり、喫茶店に行ったりした。
 あまり遅くなるわけにはいかなかったし、怖かったから、夜まではつき合わなかった。
 海にも誘われたけど、泊まりは無理と断った。グループで行こうかという案も出たけど、ほかの女の子もそこまでの勇気は出なくて、立ち消えになった。
 そうこうするうちに、受験で頭がいっぱいになって、ふたりで会うこともなくなった。
 みんなで初詣に行った帰りに、ふたりきりになり、神社の森で抱き合った。初めてのキスをした。ホテルに行った。やっぱり怖くなってしまった。
「大学も別々になることははっきりしているし、離れてもいっしょでいるなんて、絶対無理だよ」と言った。
 わたしのかたくなな気持ちがはっきり伝わったみたいで、彼はそれ以上迫らなかった。ほっとしたけど、しばらくひきずった。
 卒業式のあと、やっぱりあのときの判断は正しかったと納得した。あのときはどうなってもかまわないと半分思っていた。しかし、卒業して遠く隔たってしまえばふたりは変わってしまうのだと、冷静に考える自分になっていた。斉藤由貴の『卒業』を、レコードがすり切れるほど聞いた。

  ああ 卒業しても友だちね
  それは嘘では無いけれど
  でも過ぎる季節に流されて
  逢えないことも知っている

 卒業して、大学に入学して、そして龍一と出会った。わたしを大切にするというから、彼に大事なものを捧げた。でも、いまはわからない。彼はなにを考えているのだろうか。わたしはどこまで彼についていけるのだろうか。

 龍一は今度は慎重に、飲んだり、外を眺めたりすることを目的に設置された席を探した。
 船の側方の廊下のきわ、窓がずっと並んでいるところに席があった。龍一は生ビールと枝豆の続きをはじめた。窓を通して見る海と空の青色は光線が足りなくて、範囲も限られていた。それでもじゅうぶんに面白さがあった。波の動きは見飽きなかった。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 あなたに夢中
◆ 執筆年 2000年8月6日