あなたに夢中

ひまわり
prev

20

「この人、すごいね。わたし、この人の声、とても好き」
「うん。多くの人がそう思っているんだ」
 あたりはすっかり暗くなった。道は広くてまっすぐだ。店はほとんどない。
「地図によると、このへんにあるはずなんだけど」
「あれかな」
「そうだわ。やっと着いたね」
 彼は道の駅の駐車場に車をとめた。
「とりあえず、なにか食べよう」
「お風呂入りたいわ」
「ここはなさそうだよ」
「だって、泊まれるんでしょ」
「トイレは二十四時間使えるよ」
 温子はまじまじと龍一を見つめた。
「車で寝るの?」
「そうだよ」
「もういや! 言っておいてくれれば、準備してきたのに」
 温子はそっぽを向いて頬をふくらました。
「だいたいわたしでよかったわよ。もしシーツのうえじゃなくちゃ寝られないっていう、女の子らしい女の子だったらどうするの?」
「いや、温子さんに限ってそんなことはないよ」
「ひどい、なにそれ」
「いやそういうわけじゃなくて」
「どういうわけ?」
「よかったなと思って」
「ちっともよくないわよ。わたしだってシーツのうえで寝たいわ」
「シーツ持ってくればよかったな」
「そういうことじゃないのよ」
 ピントはずれの龍一の言葉を聞くと、怒る気にもならない。
「もういいわ。ふふっ」

「寒いわ」
 温子は毛布で肩を隠した。
「砂漠が増えるから」
「どういう意味?」
 龍一はエンジンをかけてヒーターを少しきかせて言った。
next

【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 あなたに夢中
◆ 執筆年 2000年8月6日