あなたに夢中
21
「CO2規制に協力しなくちゃって少しだけ思ったんだ。温暖化で砂漠が増えてるから」
温子は笑った。それから、ピアニッシモで「星がきれい」と言った。無駄な音の出ない楽器のようだった。
「だいぶ近づいたよ」
「え?」
「目的地はこのすぐ近くなんだ」
「なんだ。わたし、北海道って星に近いんだって思った」
「それは、近いかもね」
「ふふっ」
そっとキスをした。龍一は温子の胸のあたりをまさぐった。
「だめ」
温子は身を引いて、背中を向けて、毛布をかぶった。
あちらからもこちらからも、車のエンジンの重低音が聞こえてくる。
朝、コンビニでパンとサンドイッチと牛乳とコーヒーを買い、食事をすませて、先に進んだ。
瞬く間にひまわり畑に着いた。どこまでも青い空の下、ひまわりが黄色い大きな花を広げていた。
「すごーい! こんなにいっぺんにひまわり見たの初めて。本当に、すごい、すごい、すごーい! 映画と同じだ」
龍一も表情こそあまり変わらなかったが、感動していた。
ふたりは遊覧の馬車に乗った。湿度のないさわやかな空気は真夏とは思えなかった。迷路のようなひまわり畑の中を進み、風は草の匂いを運んできた。馬が歩きながら糞を落とした。
「列車で行けども行けどもってわけにはいかないけどね」
「それでもすごいよ。龍一君ありがとう」
「兵士は埋まっていないけど、おれの思いが埋まっているよ」
龍一は、その言葉を、馬の背中のうえに、丁寧に、そして温子のほうへ向けて置いた。けれども温子は、その言葉を自分の戸棚に受け取らないで、一時預かり所に置いた。よく吟味してからといわんばかりに。そして、やっぱり自分の戸棚にしまいこまなかった。
「ありがとう」
一時預かり所の係が、持ち主に事務的にその持ち物をもどすような言い方だった。そしてひまわりに顔を向けて黙った。
温子は笑った。それから、ピアニッシモで「星がきれい」と言った。無駄な音の出ない楽器のようだった。
「だいぶ近づいたよ」
「え?」
「目的地はこのすぐ近くなんだ」
「なんだ。わたし、北海道って星に近いんだって思った」
「それは、近いかもね」
「ふふっ」
そっとキスをした。龍一は温子の胸のあたりをまさぐった。
「だめ」
温子は身を引いて、背中を向けて、毛布をかぶった。
あちらからもこちらからも、車のエンジンの重低音が聞こえてくる。
朝、コンビニでパンとサンドイッチと牛乳とコーヒーを買い、食事をすませて、先に進んだ。
瞬く間にひまわり畑に着いた。どこまでも青い空の下、ひまわりが黄色い大きな花を広げていた。
「すごーい! こんなにいっぺんにひまわり見たの初めて。本当に、すごい、すごい、すごーい! 映画と同じだ」
龍一も表情こそあまり変わらなかったが、感動していた。
ふたりは遊覧の馬車に乗った。湿度のないさわやかな空気は真夏とは思えなかった。迷路のようなひまわり畑の中を進み、風は草の匂いを運んできた。馬が歩きながら糞を落とした。
「列車で行けども行けどもってわけにはいかないけどね」
「それでもすごいよ。龍一君ありがとう」
「兵士は埋まっていないけど、おれの思いが埋まっているよ」
龍一は、その言葉を、馬の背中のうえに、丁寧に、そして温子のほうへ向けて置いた。けれども温子は、その言葉を自分の戸棚に受け取らないで、一時預かり所に置いた。よく吟味してからといわんばかりに。そして、やっぱり自分の戸棚にしまいこまなかった。
「ありがとう」
一時預かり所の係が、持ち主に事務的にその持ち物をもどすような言い方だった。そしてひまわりに顔を向けて黙った。