あなたに夢中

26
龍一は脇道にそれ、深い緑のあいだを走り抜けた。古びたタバコの看板の小さな商店を右に折れて、港近くの堤防沿いに車をとめた。
龍一は温子のほうを向いて、顔を近づけた。助手席に移り、シートを倒した。温子の胸がはだけた。カレンの歌声だけが聞こえた。
スカートの中に手を入れようとすると、温子の手が邪魔した。
「だめ」
「そんなあ」
「だめよ。こんなに明るいのに」
「だれもこないよ」
温子はあたりを見まわした。港にもまばらな人家にも人影はない。
「やっぱり、だめ。落ち着かないもん。やだよ、わたしのこと軽く考えてるんじゃないの」
温子はわざときつい顔をしてみた。効果があった。
「そんなことないさ。ごめんね、なんかつい、その気になっちゃって」
「バナナラマがいけないのね。曲、替えよう」
自分が龍一の首にしがみついたことについては言及を避けた。バナナラマのせいにしておけばすべては丸く収まるのだ。
龍一は運転席に移り、靴をはいた。
薬師丸ひろ子が流れた。
「ねえ、砂浜に行って、泳ごう」
「そうだね」
龍一は緑のあいだをゆっくり走り、国道に出た。
海岸に沿ってひたすら南に向かった。やがて、大勢の人でにぎわっている浜辺が見えてきた。
「ここにしようか」
「だめ」
「どうして」
「こんなに人がいるじゃない。わたしたちの目指すべきは、錆びたトタン屋根の漁師の家が身を寄せあってるような砂浜よ」
温子はいたずらっぽい目でそういった。
「よし、わかった。さびたトタン屋根の漁師の家を探そう」
龍一は温子のほうを向いて、顔を近づけた。助手席に移り、シートを倒した。温子の胸がはだけた。カレンの歌声だけが聞こえた。
スカートの中に手を入れようとすると、温子の手が邪魔した。
「だめ」
「そんなあ」
「だめよ。こんなに明るいのに」
「だれもこないよ」
温子はあたりを見まわした。港にもまばらな人家にも人影はない。
「やっぱり、だめ。落ち着かないもん。やだよ、わたしのこと軽く考えてるんじゃないの」
温子はわざときつい顔をしてみた。効果があった。
「そんなことないさ。ごめんね、なんかつい、その気になっちゃって」
「バナナラマがいけないのね。曲、替えよう」
自分が龍一の首にしがみついたことについては言及を避けた。バナナラマのせいにしておけばすべては丸く収まるのだ。
龍一は運転席に移り、靴をはいた。
薬師丸ひろ子が流れた。
「ねえ、砂浜に行って、泳ごう」
「そうだね」
龍一は緑のあいだをゆっくり走り、国道に出た。
海岸に沿ってひたすら南に向かった。やがて、大勢の人でにぎわっている浜辺が見えてきた。
「ここにしようか」
「だめ」
「どうして」
「こんなに人がいるじゃない。わたしたちの目指すべきは、錆びたトタン屋根の漁師の家が身を寄せあってるような砂浜よ」
温子はいたずらっぽい目でそういった。
「よし、わかった。さびたトタン屋根の漁師の家を探そう」