あなたに夢中

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第四部 呪われた漁村
龍一の車はいくつかのトンネルを抜けた。ふいに、温子が言った。
「あれ。トタン屋根の家がいっぱい」
「ほんとうだ」
「ねえ、あそこにしよう」
「よし、わかった。砂浜はあるかな?」
「きっと、あるわよ」
龍一は海岸に向かう道に入っていった。道はすぐに砂利道になり、しかもすごい急斜面だった。慎重に車を進めたが、下側がこすれてぎいぎい音を立てた。
「この道でいいのかしら?」
「ほかにはなかったようだけど」
急斜面が終わり、両側に丈の高い草の生い茂るでこぼこの砂利道をしばらく行くと、通行止めになっていて、がっしりとしたチェーンが張ってあった。その前はひらけていて、視界いっぱいに午後の日をきらきら反射させた海が横たわっていた。堤防が行く手をふさいでいた。左手には民家が寄り添うように立っていた。
「最悪」温子は龍一のほうを向いて腕をぎゅっとつかんだ。「ねえ、もどろうよ」
「待って、こっちから行っちゃおう」
道の両側がきちんと草を刈りこんであるのをいいことに、龍一は道からはずれて民家のほうに向けて車を無理矢理走らせた。
「やだ。国道にもどって、ちゃんとした道を探そうよ」
「平気だよ。ほら、あそこから抜けられるよ」
龍一が指さしたほうを見ると、原っぱの向こうが広い舗装道路になっていた。
「ほんとうだ」
抜けでたと思った瞬間、車が前のめって、とまってしまった。
「きゃあ! どうしたの?」
「わからない。落とし穴かな?」
龍一は車を降りて調べ、助手席を見あげた。温子は窓からのぞきこむようにした。
「側溝にタイヤがはまった」
温子はドアをあけて車を降り、龍一の隣に座った。前輪がふたつともすぽっとはまっている。
温子は顔を曇らせて龍一を見た。
「どうするの?」