あなたに夢中
30
「もういや。なんでそういうことばかり言うの。どうせ、車を呼びとめるのがいやなんでしょう。JAFにも電話をしたがらないし、民家に人を呼びにも行きたがらなかった。だいたいわたしがやめようって言ったのに、龍一君が道をはずしたからこうなったのよ。なんとかしてちょうだいよ」
「わかった。なんとかして呼びとめてみよう」
ふたりは懸命に手を振ったが、まったく効果はなかった。。とまりかける車もあるが、ふたりに近づくと慌てて行ってしまう。いちど温子は車の前に立ちはだかって切実に訴えたが、先を急いでいるからと言い残し、おびえたような顔で去ってしまった。
「どうしてとまってくれないのかしらね?」
「君の全身からキキが立ちのぼっているからだよ」
「キキ?」
「鬼の気配と書いて、鬼気だよ」
温子の全身から気力が抜けていった。
「もう、TPOをわきまえない冗談はやめてよ。今度言ったらほんとうにきらいになるから。バカ!」
しばらくすると、ふたりはあきらめて車にもどった。温子は疲れきって、寝かしたシートに体を投げだした。
日が高くなって、気温が四十度近くまであがった。
「のどが渇いた」
温子がぽつりと言った。
龍一は、エンジンをかけ、クーラーをつけて、落ち着いた声で言った。
「泳がない?」
温子は顔を龍一とは反対側に向けて言った。
「おなかがいっぱいになって、なんの心配事もしなくてすむようになったら、考えてみるわ」
龍一は大きなリュックの中をがさごそと探り、簡単な昼食をしつらえた。
「こんなこともあろうかと思ってね」といって、龍一は温子の肩をたたいた。
温子は振り向いてそこにある食物を見た。そして顔をほころばせた。
「わあ、すごーい」
パンとチーズと缶詰とびん瓶詰だった。缶詰は、ソーセージといわし鰯とアスパラとグリーンピースとパインアップルと洋梨と牛乳だった。瓶詰は、ピクルスとマスタードといちご苺ジャムとブルーベリージャムとレバーペーストだった。
「わかった。なんとかして呼びとめてみよう」
ふたりは懸命に手を振ったが、まったく効果はなかった。。とまりかける車もあるが、ふたりに近づくと慌てて行ってしまう。いちど温子は車の前に立ちはだかって切実に訴えたが、先を急いでいるからと言い残し、おびえたような顔で去ってしまった。
「どうしてとまってくれないのかしらね?」
「君の全身からキキが立ちのぼっているからだよ」
「キキ?」
「鬼の気配と書いて、鬼気だよ」
温子の全身から気力が抜けていった。
「もう、TPOをわきまえない冗談はやめてよ。今度言ったらほんとうにきらいになるから。バカ!」
しばらくすると、ふたりはあきらめて車にもどった。温子は疲れきって、寝かしたシートに体を投げだした。
日が高くなって、気温が四十度近くまであがった。
「のどが渇いた」
温子がぽつりと言った。
龍一は、エンジンをかけ、クーラーをつけて、落ち着いた声で言った。
「泳がない?」
温子は顔を龍一とは反対側に向けて言った。
「おなかがいっぱいになって、なんの心配事もしなくてすむようになったら、考えてみるわ」
龍一は大きなリュックの中をがさごそと探り、簡単な昼食をしつらえた。
「こんなこともあろうかと思ってね」といって、龍一は温子の肩をたたいた。
温子は振り向いてそこにある食物を見た。そして顔をほころばせた。
「わあ、すごーい」
パンとチーズと缶詰とびん瓶詰だった。缶詰は、ソーセージといわし鰯とアスパラとグリーンピースとパインアップルと洋梨と牛乳だった。瓶詰は、ピクルスとマスタードといちご苺ジャムとブルーベリージャムとレバーペーストだった。