あなたに夢中

31
「食べよう」龍一がにっこりと微笑んだ。
温子の表情が少し穏やかになった。
「ありがとう」
ふたりの言葉が、コンソールボックスに置いたプラスチックのお盆のうえの、所狭しと並べてある缶詰や瓶詰のあいだで、そっと寄り添った。
龍一はまるで早食いの練習をしているように食べて、リュックを外に持ちだしガチャガチャ音を立てている。
温子がおなかいっぱいになって降りてみると、龍一はガスバーナーで湯を沸かし、コーヒーを淹れていた。風向きが変わり、温子の鼻先にコーヒーの強い香りが流れてきた。
「飲む?」龍一が顔をあげた。
「飲む、飲む!」温子は即座に答えた。
龍一はマグカップにコーヒーをそそいで温子に渡し、車のキーをアクセサリーに切り替え、テープのスイッチを入れて、布張りの折り畳み椅子に腰をおろした。
薬師丸ひろ子の『すこしだけ やさしく』が始まった。
ちょっぴり暗い眼をしていたら
陽気な声ふりまいてはしゃいであげる
少しだけ冷たくしてあげる
重ねた右手そっと外して
私もきっと天邪鬼だわ
「熱くておいしいね。暑いのに変」
温子の顔が幸せでいっぱいになった。コーヒーとこれほど素直に向かいあったのは初めてかもしれないと思った。
「おかわりもらえる?」
龍一は温子のマグカップにまたたっぷりとそそいだ。
「おなかがいっぱいになると機嫌が直るね。我ながらあきれるわ。そうね、じたばたしても仕方ないから、ここで休んで、名案を浮かばせようか」
「ワイン冷やしてるんだよ。磯の日陰に沈めたけど、そんなに冷たくならないかもしれない」
「ほんとう? 楽しみね」
「着替えてきなよ。これふくらませておくから」
温子の表情が少し穏やかになった。
「ありがとう」
ふたりの言葉が、コンソールボックスに置いたプラスチックのお盆のうえの、所狭しと並べてある缶詰や瓶詰のあいだで、そっと寄り添った。
龍一はまるで早食いの練習をしているように食べて、リュックを外に持ちだしガチャガチャ音を立てている。
温子がおなかいっぱいになって降りてみると、龍一はガスバーナーで湯を沸かし、コーヒーを淹れていた。風向きが変わり、温子の鼻先にコーヒーの強い香りが流れてきた。
「飲む?」龍一が顔をあげた。
「飲む、飲む!」温子は即座に答えた。
龍一はマグカップにコーヒーをそそいで温子に渡し、車のキーをアクセサリーに切り替え、テープのスイッチを入れて、布張りの折り畳み椅子に腰をおろした。
薬師丸ひろ子の『すこしだけ やさしく』が始まった。
ちょっぴり暗い眼をしていたら
陽気な声ふりまいてはしゃいであげる
少しだけ冷たくしてあげる
重ねた右手そっと外して
私もきっと天邪鬼だわ
「熱くておいしいね。暑いのに変」
温子の顔が幸せでいっぱいになった。コーヒーとこれほど素直に向かいあったのは初めてかもしれないと思った。
「おかわりもらえる?」
龍一は温子のマグカップにまたたっぷりとそそいだ。
「おなかがいっぱいになると機嫌が直るね。我ながらあきれるわ。そうね、じたばたしても仕方ないから、ここで休んで、名案を浮かばせようか」
「ワイン冷やしてるんだよ。磯の日陰に沈めたけど、そんなに冷たくならないかもしれない」
「ほんとう? 楽しみね」
「着替えてきなよ。これふくらませておくから」