あなたに夢中

34
夕日がふたりの姿をオレンジ色に染めていた。ふたりは砂のうえを転がって波打ち際でとまった。温子の頭と背中の下の砂を波がさらい、温子の口に海水が入ってきた。
海水の中に半分つかった温子の顔に、龍一の顔が近づいた。
夕日がかがり火のようにてらてらと温子の上半身を照らした。
「髪も肩も胸も腰もオレンジ色に染まって、とてもきれいだ」
「龍一君にきれいだって言われるの初めてよ」
「そうだったかな」
「そうよ。龍一君、わたしのことをきれいだとも好きだとも言ってくれたことないわ。わたしはいつも好きだって言ってるのに」
「じゃあ、これでおあいこだね。おれはまだきれいだって言ってもらってないから」
「もう!」温子は頬をふくらました。龍一は温子の顔を両手で包みこみ、自分の顔を近づけた。
半分波の中に沈んだ夕日が溶けだして、無数の赤い筋を海面に流しこんでいる。桃色に泡だつ波頭が崩れる音と、やかましい海鳥の鳴き声は、ふたりの息づかいと不思議に調和していた。
龍一の横で足を波に洗わせたまま、温子は言った。
「そう言えば、どの家にも大きくてきれいなひまわりが咲いてたね」庭もよく手入れが行き届いていて、人がちゃんと住んでいる証拠だね。近いうちにだれかもどってくるね。そう続けようとした温子を龍一がさえぎ遮った。
「ひまわりの呪いだ」龍一はまっすぐ温子の目を見た。
「ひまわりって妙な花だと思わない? 見事な花だけど、見事すぎて変なんだ。あまりにも完璧で、逆に奇妙に感じられる。この世界には完璧なものはない。完璧に近いものがあると、その強烈な力で、周りにあるものが狂うんだよ。重力の大きいものがあると時空がゆがむっていうのかな。ひまわりに魅せられたゴッホもおかしくなってたよね。ひまわりにまつわるものって、そういうのが多くない?」
「……」
海水の中に半分つかった温子の顔に、龍一の顔が近づいた。
夕日がかがり火のようにてらてらと温子の上半身を照らした。
「髪も肩も胸も腰もオレンジ色に染まって、とてもきれいだ」
「龍一君にきれいだって言われるの初めてよ」
「そうだったかな」
「そうよ。龍一君、わたしのことをきれいだとも好きだとも言ってくれたことないわ。わたしはいつも好きだって言ってるのに」
「じゃあ、これでおあいこだね。おれはまだきれいだって言ってもらってないから」
「もう!」温子は頬をふくらました。龍一は温子の顔を両手で包みこみ、自分の顔を近づけた。
半分波の中に沈んだ夕日が溶けだして、無数の赤い筋を海面に流しこんでいる。桃色に泡だつ波頭が崩れる音と、やかましい海鳥の鳴き声は、ふたりの息づかいと不思議に調和していた。
龍一の横で足を波に洗わせたまま、温子は言った。
「そう言えば、どの家にも大きくてきれいなひまわりが咲いてたね」庭もよく手入れが行き届いていて、人がちゃんと住んでいる証拠だね。近いうちにだれかもどってくるね。そう続けようとした温子を龍一がさえぎ遮った。
「ひまわりの呪いだ」龍一はまっすぐ温子の目を見た。
「ひまわりって妙な花だと思わない? 見事な花だけど、見事すぎて変なんだ。あまりにも完璧で、逆に奇妙に感じられる。この世界には完璧なものはない。完璧に近いものがあると、その強烈な力で、周りにあるものが狂うんだよ。重力の大きいものがあると時空がゆがむっていうのかな。ひまわりに魅せられたゴッホもおかしくなってたよね。ひまわりにまつわるものって、そういうのが多くない?」
「……」