あなたに夢中

35
「こんな話もあるんだよ。ある男がひまわりを育てていたんだ。走り高跳びの選手だった。記録が伸びなくて悩んでいた。2mをどうしても超えられないんだ。あるとき彼は、バイクでツーリングに行った。うしろに女の子を乗せてね。ダムで休んでいると、2m跳べるのはいましかないかもしれないって女の子に言って、ダムの手すりを跳び越したんだ。引きとめる余裕もなかったということだ。見事なベリーロールだったそうだ。女の子があとで彼の部屋を片付けにいって、帰り際にひまわりと目があった。目があったとしか形容できない不思議な感じがしたらしい。女の子は気になって、無関係だとは思ったけど、ひまわりの丈を測ってみた。そしたら2m少し超えたぐらいだったんだって。この話が信じられなければそれでもいいんだけど、ひまわりが変わってるって思ったことない? だいたい、一年でいちばん暑いときに咲く花は、どれも少し変わってるけどね。ひまわりを育てるとなにかが狂うんだ。育てた本人か、もしくは周りの人が、少しずつおかしくなっていくんだよ。多分、漁民たちの身になにかが起こったんだよ」
夜風が吹いてきた。明かりはひとつもない。遠くでかすかに光っているのは、漁船か灯台だろう。雲はない。満天に星がまたたいている。波の音だけが聞こえる。
「どうせそれも龍一君の作り話だとはわかってるけど、なんか少しだけ怖くなってきた」
温子はこと座の横に、言葉をおそるおそる置いた。そして、震えだした。
「ねえ、おしっこしたくなっちゃった」
温子の言葉は、こと座の横でますます震えた。
「ここでしてもいい?」
「え?」
「離れたら、龍一君がいなくなってしまう気がするの」
「手を握っててあげるよ」
龍一の言葉はわし座の横に座ったが、こと座の横に所在なさげにしている温子の言葉を見るとそっと近づいた。
「聞いてちゃ、いやよ」
「うん」
こと座とわし座のあいだを天の川が流れた。
「しょり、しょり、しょり」
龍一は握る手の力をほんのわずか強めた。温子は温かかった。しっとりしていた。
夜風が吹いてきた。明かりはひとつもない。遠くでかすかに光っているのは、漁船か灯台だろう。雲はない。満天に星がまたたいている。波の音だけが聞こえる。
「どうせそれも龍一君の作り話だとはわかってるけど、なんか少しだけ怖くなってきた」
温子はこと座の横に、言葉をおそるおそる置いた。そして、震えだした。
「ねえ、おしっこしたくなっちゃった」
温子の言葉は、こと座の横でますます震えた。
「ここでしてもいい?」
「え?」
「離れたら、龍一君がいなくなってしまう気がするの」
「手を握っててあげるよ」
龍一の言葉はわし座の横に座ったが、こと座の横に所在なさげにしている温子の言葉を見るとそっと近づいた。
「聞いてちゃ、いやよ」
「うん」
こと座とわし座のあいだを天の川が流れた。
「しょり、しょり、しょり」
龍一は握る手の力をほんのわずか強めた。温子は温かかった。しっとりしていた。