あなたに夢中
41
龍一はひとりで沖に行った。
明子は海岸から百mほど沖の、岩の多い場所まで泳ごうと提案した。温子は泳ぎに自信がないからと、ゴムボートに乗って沖に出た。途中で明子も乗りこんできて、いっしょに漕いだ。
しばらく海の底に潜っていた明子が、鮑や栄螺を抱えてもどってきた。
温子はボートからのぞきこんで、海底から浮上する明子を怖々と見守っていた。
海底から何度も持ってきた獲物を、ゴムボートの一角に積みあげた明子は、よじ登ってボートの縁で休んだ。
「密猟したみたいに言っちゃったけど、温子さんは獲らなかったのね」
明子は顔だけ温子に向けてそう言うと、ふふっと笑った。温子もつられて笑った。
「でも獲るのを見てたし、食べちゃったから、共犯者よ」
明子はそれを聞くと、顔をほんの少し曇らせて、顔を前にもどした。しばらく沈黙が流れた。
ボートを打つ波の音とうみねこの鳴き声がかなり大きく聞こえた。
ふいに明子は質問した。
「いつ、付き合いはじめたの?」
温子は素直に答えた。
「五月よ」
「なに、龍一って、けっこうと手が早いのね」
明子が即座に言った。一七〇度の油に、片栗粉をまぶした鶏肉をさっと滑りこませたような、強く鮮やかな言い方だった。
「ここを離れてすぐじゃない? ねえ」
温子に顔を向けてそう言うと、明子はにっこりした。
ずっと明子に見詰められているのに耐えられなくて、思わず温子は直接的なことをきいてしまった。
「もしかして明子さんは龍一君の恋人なの?」
「恋人なんかじゃないよ。姉貴だよ。だって、ふたつも離れてるんだよ」
「そんなの年上のうちに入らないですよ」
「龍一はほんとうに困ったやつだよね。キャンディーズの『年下の男の子』みたい」
「キャンディーズ! 懐かしい。わたしもよくレコード買いました」
「わたし、スーちゃんが好き」
「えっ、ほんとうに? 実は、わたしもスーちゃんが好きなんです」
「はじめは、スーちゃんがまんなかだったんだよね」
「そうそう、『年下の男の子』からランちゃんがまんなかに変わったんですよね」
「あれ、『年下の男の子』からだっけ。『春一番』からだと思ってた」
明子は海岸から百mほど沖の、岩の多い場所まで泳ごうと提案した。温子は泳ぎに自信がないからと、ゴムボートに乗って沖に出た。途中で明子も乗りこんできて、いっしょに漕いだ。
しばらく海の底に潜っていた明子が、鮑や栄螺を抱えてもどってきた。
温子はボートからのぞきこんで、海底から浮上する明子を怖々と見守っていた。
海底から何度も持ってきた獲物を、ゴムボートの一角に積みあげた明子は、よじ登ってボートの縁で休んだ。
「密猟したみたいに言っちゃったけど、温子さんは獲らなかったのね」
明子は顔だけ温子に向けてそう言うと、ふふっと笑った。温子もつられて笑った。
「でも獲るのを見てたし、食べちゃったから、共犯者よ」
明子はそれを聞くと、顔をほんの少し曇らせて、顔を前にもどした。しばらく沈黙が流れた。
ボートを打つ波の音とうみねこの鳴き声がかなり大きく聞こえた。
ふいに明子は質問した。
「いつ、付き合いはじめたの?」
温子は素直に答えた。
「五月よ」
「なに、龍一って、けっこうと手が早いのね」
明子が即座に言った。一七〇度の油に、片栗粉をまぶした鶏肉をさっと滑りこませたような、強く鮮やかな言い方だった。
「ここを離れてすぐじゃない? ねえ」
温子に顔を向けてそう言うと、明子はにっこりした。
ずっと明子に見詰められているのに耐えられなくて、思わず温子は直接的なことをきいてしまった。
「もしかして明子さんは龍一君の恋人なの?」
「恋人なんかじゃないよ。姉貴だよ。だって、ふたつも離れてるんだよ」
「そんなの年上のうちに入らないですよ」
「龍一はほんとうに困ったやつだよね。キャンディーズの『年下の男の子』みたい」
「キャンディーズ! 懐かしい。わたしもよくレコード買いました」
「わたし、スーちゃんが好き」
「えっ、ほんとうに? 実は、わたしもスーちゃんが好きなんです」
「はじめは、スーちゃんがまんなかだったんだよね」
「そうそう、『年下の男の子』からランちゃんがまんなかに変わったんですよね」
「あれ、『年下の男の子』からだっけ。『春一番』からだと思ってた」