あなたに夢中

ひまわり
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「たしかそうだったと思います」
「ふうん。でも、仕方ないよね。ランちゃんのほうが、男の子に受けそうだもんね」
「龍一君もランちゃんのほうが好きそうな感じがする」
 明子さんは明るくてランちゃんに似ているなあと思いながらそう言った。
「そうかな? 龍一はスーちゃんが好きだと思うけど」
 温子さんはスーちゃんみたいにしっとりして柔らかな女の子だと思いながら明子は言った。
「龍一君、スーちゃんのファンなんですか」
「わかんない。きいたことない」
 温子はただ明子のほうを向いていた。
 明子はまったく関係のないことをきいた。
「温子さん、龍一って、変なやつだと思わない?」
 明子はそう言うと、自分で言った言葉がおかしくなって、吹きだしてしまった。
 温子もここ数日の出来事を思い浮かべるとおかしさがこみあげてきて、声を立てて笑いだした。どうしても話さずにはいられなくなり、龍一とのいきさつを一通り明子に話した。

 温子が話しているあいだじゅう、明子は笑い転げていた。苦しくて手や足をばたばたした拍子に、栄螺を三、四匹、海に落とした。温子が話し終わると、笑い涙を両手で拭った。泣き笑いはしばらくやまなかった。悲しくて泣いているようにも見えた。温子が心配そうな顔をすると、明子が、わたしも龍一のおかしい話、してあげると言って、話しだした。
「この村の国道で、ドライバーがお化けを見るという噂が広まったの。村の警察と青年団が見まわりをすることになったのよ。そして、ある夜、不審な人物を見つけたから捕まえようとすると、そいつはすばやく逃げちゃったんだって。何回か捕まえ損なったという話を聞いて、わたし、ピーンときて、ひとりで出かけたの。国道にそいつが立ってた。すぐわかったよ。龍一だった。お化けのマスクかぶって、ドライバーを懸命に脅かしてるのよ。わたしがうしろから近付いて、うらめしやーって悲しそうに言ったら、びっくりして三〇㎝ぐらい飛び跳ねてた。おっかしかったよー」
 温子は声を立てて笑った。笑っていて、ふとあることに気付いて、明子に話してみた。
「昨日、国道で人を呼びとめようとしたんだけど、みんな変な目つきで行ってしまったの。もしかしたら」
 温子と明子は目を見合わせた。
「あり得る。そのとき、龍一、なにか持ってた?」
「なにも持ってなかったけど、そう言えば、大きいショルダーバッグを肩にかけてた」
「それだ。たしかめにいこう」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 あなたに夢中
◆ 執筆年 2000年8月6日