あなたに夢中

44
「似てるなあって思ったんだ。そっくりだよ」
「わたしも、初め見たときびっくりしたわ。温子さんが気にすると悪いなと思って、わざと言わないでおいたんだよ」
「わたしもバスから降りたとき、一瞬、なんでゆきちゃんがいるんだろうって思った」明子も言った。
温子はとまどった。そして、遺影をまじまじと見つめた。五月の合コンのとき、龍一がまじまじと自分を見ていたことを思い出した。
その晩、温子は二階の龍一の部屋の隣の部屋で、明子といっしょに泊まった。ゆきちゃんの部屋、と明子がさらっと言った。暗い中でいろいろと女同士の話をして、夜は更けた。
話が途切れ、長い時間がたった。眠りかけたころ、なんの前触れもなく明子が言った。
「ごめんね、わたし、嘘ついてた」
「……」
「ゆきちゃんに相談されたの。このままだとわたし、お兄ちゃんを拒みきれないかもしれないって」
「……」
「本当に、仲のいい兄妹だったわ」
「……」
「わたし、このままじゃ、絶対まずいと思ったから……」
布団が擦れる音がした。横を向くと、常夜灯の薄い明かりを宿した大きな瞳が自分を見ている。
「ほかに方法がなかったの」
明子はまた天井を向き、そのまま黙った。
まだなにか言うだろう、いや、言わなければならないだろうと思って待っていたが、外の波の音と虫の鳴き声が聞こえるだけだった。
しばらくすると寝息が聞こえてきた。
温子は寝られなくなってしまった。いろいろなことを想像して、幾度も明子に話しかけようとした。言いかけてはやめ、言いかけてはやめしているうちに、話すきっかけを完全に失った感じがした。しかしまた少しすると、「もしかしたらなにかの聞き間違いかもしれない」と思い、明子が言ったことをたしかめてみようとした。しかし、声が出なかった。
龍一はいろいろなものを抱えている。それをわたしはどうしてあげればいいのだろうか。龍一は明子のことをいったいどう思っているのだろう? わたしは龍一君にとっていったいどんな存在なんだろう?
「わたしも、初め見たときびっくりしたわ。温子さんが気にすると悪いなと思って、わざと言わないでおいたんだよ」
「わたしもバスから降りたとき、一瞬、なんでゆきちゃんがいるんだろうって思った」明子も言った。
温子はとまどった。そして、遺影をまじまじと見つめた。五月の合コンのとき、龍一がまじまじと自分を見ていたことを思い出した。
その晩、温子は二階の龍一の部屋の隣の部屋で、明子といっしょに泊まった。ゆきちゃんの部屋、と明子がさらっと言った。暗い中でいろいろと女同士の話をして、夜は更けた。
話が途切れ、長い時間がたった。眠りかけたころ、なんの前触れもなく明子が言った。
「ごめんね、わたし、嘘ついてた」
「……」
「ゆきちゃんに相談されたの。このままだとわたし、お兄ちゃんを拒みきれないかもしれないって」
「……」
「本当に、仲のいい兄妹だったわ」
「……」
「わたし、このままじゃ、絶対まずいと思ったから……」
布団が擦れる音がした。横を向くと、常夜灯の薄い明かりを宿した大きな瞳が自分を見ている。
「ほかに方法がなかったの」
明子はまた天井を向き、そのまま黙った。
まだなにか言うだろう、いや、言わなければならないだろうと思って待っていたが、外の波の音と虫の鳴き声が聞こえるだけだった。
しばらくすると寝息が聞こえてきた。
温子は寝られなくなってしまった。いろいろなことを想像して、幾度も明子に話しかけようとした。言いかけてはやめ、言いかけてはやめしているうちに、話すきっかけを完全に失った感じがした。しかしまた少しすると、「もしかしたらなにかの聞き間違いかもしれない」と思い、明子が言ったことをたしかめてみようとした。しかし、声が出なかった。
龍一はいろいろなものを抱えている。それをわたしはどうしてあげればいいのだろうか。龍一は明子のことをいったいどう思っているのだろう? わたしは龍一君にとっていったいどんな存在なんだろう?