あなたに夢中
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「知ってるわけじゃないよ。ただね、おじさんに電話があったの。しばらくバイト先にやっかいになるから、こっちに電話はしてって。簡単な連絡でしょ。あいつまともなことは話すのがいやなんだ。くだらないことはぺらぺら話すくせに」
温子の耳には途中から明子の言葉が入らなくなった。頭の中で、北海道にくる前の龍一の行動がひとつにつながったのだ。
いつもきつい肉体労働のバイトをしている。デートはいつもドライブ。車はバイト先から調達して、ガソリン代もバイト先に持ってもらえる。デートに行っても外食はせず、わたしが作ったお弁当をいっしょに食べる。映画館に行かなかったのは、お金を節約してたのね。北海道で余裕のあるところを見せようと思って、十日間バイト先に泊まりこんだ。わたしに予定を話さなかったけど、自分がつらい思いをしていることも話さなかった。弱音を吐かないのは偉いけど、もっとわたしに言ってくれたらいいのに。わたし、リッチな彼氏がほしいなんて思ったこと、いちどもないし、言ったこともないよ。うちだって農家で、暮らしは楽じゃないんだから。生活の苦労とかは耐えられるよ。それに、ふたりで苦労を分かち合えば、けっこう楽しいものだと思うわ。
温子が涙を流しはじめたのを見て、明子は話を中断した。そして、心配そうに温子に声をかけた。
「どうしたの?」
「そこまでしなくてもよかったのに」
「ここにきてうれしくないの?」
「ううん」温子は泣きじゃくった。左手で口を押さえ、右手で明子の肩にしがみついた。
明子は掌でぽんぽんと、温子の背中をたたきながら言った。
「何時なの?」
「なにが?」
「おばあさんの手術が終わるの」
「十時ごろ」
「もう十時半だよ」
「大変! 電話しなくちゃ」
ふたりはゴムボートを漕ぎはじめた。
温子の電話が終わった。
明子に連れもどされた龍一が、父親に怒られて、母親に責められて、珍しく小さくなっていた。
温子はみんなのほうを向き、ほっとした表情で言った。
温子の耳には途中から明子の言葉が入らなくなった。頭の中で、北海道にくる前の龍一の行動がひとつにつながったのだ。
いつもきつい肉体労働のバイトをしている。デートはいつもドライブ。車はバイト先から調達して、ガソリン代もバイト先に持ってもらえる。デートに行っても外食はせず、わたしが作ったお弁当をいっしょに食べる。映画館に行かなかったのは、お金を節約してたのね。北海道で余裕のあるところを見せようと思って、十日間バイト先に泊まりこんだ。わたしに予定を話さなかったけど、自分がつらい思いをしていることも話さなかった。弱音を吐かないのは偉いけど、もっとわたしに言ってくれたらいいのに。わたし、リッチな彼氏がほしいなんて思ったこと、いちどもないし、言ったこともないよ。うちだって農家で、暮らしは楽じゃないんだから。生活の苦労とかは耐えられるよ。それに、ふたりで苦労を分かち合えば、けっこう楽しいものだと思うわ。
温子が涙を流しはじめたのを見て、明子は話を中断した。そして、心配そうに温子に声をかけた。
「どうしたの?」
「そこまでしなくてもよかったのに」
「ここにきてうれしくないの?」
「ううん」温子は泣きじゃくった。左手で口を押さえ、右手で明子の肩にしがみついた。
明子は掌でぽんぽんと、温子の背中をたたきながら言った。
「何時なの?」
「なにが?」
「おばあさんの手術が終わるの」
「十時ごろ」
「もう十時半だよ」
「大変! 電話しなくちゃ」
ふたりはゴムボートを漕ぎはじめた。
温子の電話が終わった。
明子に連れもどされた龍一が、父親に怒られて、母親に責められて、珍しく小さくなっていた。
温子はみんなのほうを向き、ほっとした表情で言った。