憑依
4
ところで、猫というのはあっという間に大人になるものだ。一年ほどはぐくみ、だいぶ大きくなったがまだまだ子供だとあなどっていたら、驚くべきことが起きた。
豊雄が高校から帰ってきて、いやいや勉強を始めると、シュガーが苦しそうにしている。見る間に子供を産んだ。おなかが大きくなっているのにもほとんど気づかなかったのである。どこの馬の骨が父親なのかわからないが、出てくるのは、黒とか縞とか、とにかく無粋なものばかり、しっぽなんか曲がっている。せっかく母親が由緒正しい猫だというのに、これでは台無しである。まったく、俺の気も知らないで、と豊雄は親だか兄だか飼い主だか、なんだかよくわからないが、とにかく複雑な気分である。変な気分になって、兄が一時熱中していた大量のシネマ雑誌をぺらぺらめくると、半裸体の女の姿のオンパレード。当然、もう高校生だから、こういう時の慰め方も知っている。マリリンとかバーグマンとかに慰めてもらっていると、急にノックの音がした。泡を食って、豊雄は受験勉強に励んでいる状態を回復する。雑誌は閉じて、ノートの下に置く。
「お茶を運んできましたけど、開けてもいいかしら?」
遠慮がちな兄嫁の声だ。ころころとかわいらしい話し方をする。こんな田舎には珍しい美人で、兄のお嫁さんにはもったいないと、常々慨嘆している。この時は、豊雄は高校三年生、シュガーが来てから一年ほどたつから、兄嫁が来てからは一年半ほどの月日が流れている。結婚して一年ぐらいは、兄貴もおとなしくしていたが、そのうちに浮気の虫が騒ぎだして、大漁の打ち上げだのなんだの、漁師仲間で飲み歩いて、あちこちに馴染みの女がいるようだ。自分ではかみさんに知られてないつもりだが、すっかりばれている。しかし細君も、やきもちを焼くのに疲れたのか、近頃は平気な顔で澄ましている。その兄嫁に、どうぞと返事をすると、障子を開けて、半分顔をのぞかせた。しずしずと畳の上を歩いて来る。机の上にお盆を置いて、シュガーの異変に気付き、驚いてしばらく見守っている。豊雄がシュガーの腹の下に敷いてやった毛布などが汚れているのに気付き、廊下に出て、タオルやらぼろきれやら持ってきて、しきりにシュガーとその子供の世話をしてやっている。母子四匹が豊雄の部屋でおとなしく寝ついたので、かわいいといいながら、顔を近づけて眺めている。今度はそれにも飽きて豊雄の机の脇に立ち、なにやら勝手に手にとって、ページをめくっている。
「やらしいなあ。男の子って、みんなこんなもの眺めてるの?」
豊雄が高校から帰ってきて、いやいや勉強を始めると、シュガーが苦しそうにしている。見る間に子供を産んだ。おなかが大きくなっているのにもほとんど気づかなかったのである。どこの馬の骨が父親なのかわからないが、出てくるのは、黒とか縞とか、とにかく無粋なものばかり、しっぽなんか曲がっている。せっかく母親が由緒正しい猫だというのに、これでは台無しである。まったく、俺の気も知らないで、と豊雄は親だか兄だか飼い主だか、なんだかよくわからないが、とにかく複雑な気分である。変な気分になって、兄が一時熱中していた大量のシネマ雑誌をぺらぺらめくると、半裸体の女の姿のオンパレード。当然、もう高校生だから、こういう時の慰め方も知っている。マリリンとかバーグマンとかに慰めてもらっていると、急にノックの音がした。泡を食って、豊雄は受験勉強に励んでいる状態を回復する。雑誌は閉じて、ノートの下に置く。
「お茶を運んできましたけど、開けてもいいかしら?」
遠慮がちな兄嫁の声だ。ころころとかわいらしい話し方をする。こんな田舎には珍しい美人で、兄のお嫁さんにはもったいないと、常々慨嘆している。この時は、豊雄は高校三年生、シュガーが来てから一年ほどたつから、兄嫁が来てからは一年半ほどの月日が流れている。結婚して一年ぐらいは、兄貴もおとなしくしていたが、そのうちに浮気の虫が騒ぎだして、大漁の打ち上げだのなんだの、漁師仲間で飲み歩いて、あちこちに馴染みの女がいるようだ。自分ではかみさんに知られてないつもりだが、すっかりばれている。しかし細君も、やきもちを焼くのに疲れたのか、近頃は平気な顔で澄ましている。その兄嫁に、どうぞと返事をすると、障子を開けて、半分顔をのぞかせた。しずしずと畳の上を歩いて来る。机の上にお盆を置いて、シュガーの異変に気付き、驚いてしばらく見守っている。豊雄がシュガーの腹の下に敷いてやった毛布などが汚れているのに気付き、廊下に出て、タオルやらぼろきれやら持ってきて、しきりにシュガーとその子供の世話をしてやっている。母子四匹が豊雄の部屋でおとなしく寝ついたので、かわいいといいながら、顔を近づけて眺めている。今度はそれにも飽きて豊雄の机の脇に立ち、なにやら勝手に手にとって、ページをめくっている。
「やらしいなあ。男の子って、みんなこんなもの眺めてるの?」