憑依

11
「菜摘姉さんは、僕と結婚することになったんだって、兄貴に言ってやります。そうしたら、ずっと一緒にいられますよ。ちゃんと話をするまで、待っていてください」
豊雄は体を離して、突然頭に思い浮かんだ言葉を真剣に言ってみた。菜摘は笑って身を寄せた。彼は再び両腕を突っ張って引き離した。
「ちゃんとしてからじゃなくちゃまずいですよ。僕、今夜言いますから、少しだけ待っていてください」
菜摘はとろけるような目で見た。
「ここにきたってことは、そのつもりっていうことでしょ。いいの、無理しなくて。私、なにもかも承知しているの」
しなだれかかった。ショートカットの髪が顔をくすぐり、ふわっとあの匂いがした。一人で夜考えていることが、現実になったのだ。理性の最後のたがが、「SUKI」という一言で外れた。菜摘の肌をこれ以上できないぐらいにいとおしんだ。ずっとムスクの香りが漂っていた。菜摘が上気すると香りも強くなった。放心した菜摘は猫のように大きな瞳で天井を見ていた。しばらくすると、菜摘が考えを言った。
「このままでいいの。余計なことは考えないでね。お兄さんに悪いなんて考える必要ないわ。あなたのお兄さんは、もっとひどいことをしているんだから。このぐらいなんでもないわよ。私はあなたのことだけを思ってるわ。武一郎さんは私のことは飽きちゃったの。もう何もないのよ。でも、別れはしない。このまま大宅家の妻を続けるの。あなたも結婚していいの。その方が怪しまれなくていいわ。お互いに家庭を持っても、時々こうして会えばいいわ。誰にも気づかれないから大丈夫。だから、変に意識しないで。いつもどおりに私と話をするのよ」
豊雄の頭の後ろに両手をやり、ずっと目を見開いたまま、菜摘は言った。その様子にはなんとなくすごみがあった。豊雄もそういう形が一番いいと思った。いや、本当は結婚したいと思ったが、それはどう考えても難しいことだったので、そうするしかないと思った。彼がうなずくと菜摘はうれしそうに笑った。猫みたいだった。また、あの匂いが強まった。彼の気分も高まった。もう一度彼は兄嫁をいつくしんだ。
「これ、あげるね」
菜摘は、小さな銀色のペンダントをはずして、手渡した。ロケットだった。中を開けると、片方に菜摘の写真、片方に豊雄の写真が入っていた。
豊雄は体を離して、突然頭に思い浮かんだ言葉を真剣に言ってみた。菜摘は笑って身を寄せた。彼は再び両腕を突っ張って引き離した。
「ちゃんとしてからじゃなくちゃまずいですよ。僕、今夜言いますから、少しだけ待っていてください」
菜摘はとろけるような目で見た。
「ここにきたってことは、そのつもりっていうことでしょ。いいの、無理しなくて。私、なにもかも承知しているの」
しなだれかかった。ショートカットの髪が顔をくすぐり、ふわっとあの匂いがした。一人で夜考えていることが、現実になったのだ。理性の最後のたがが、「SUKI」という一言で外れた。菜摘の肌をこれ以上できないぐらいにいとおしんだ。ずっとムスクの香りが漂っていた。菜摘が上気すると香りも強くなった。放心した菜摘は猫のように大きな瞳で天井を見ていた。しばらくすると、菜摘が考えを言った。
「このままでいいの。余計なことは考えないでね。お兄さんに悪いなんて考える必要ないわ。あなたのお兄さんは、もっとひどいことをしているんだから。このぐらいなんでもないわよ。私はあなたのことだけを思ってるわ。武一郎さんは私のことは飽きちゃったの。もう何もないのよ。でも、別れはしない。このまま大宅家の妻を続けるの。あなたも結婚していいの。その方が怪しまれなくていいわ。お互いに家庭を持っても、時々こうして会えばいいわ。誰にも気づかれないから大丈夫。だから、変に意識しないで。いつもどおりに私と話をするのよ」
豊雄の頭の後ろに両手をやり、ずっと目を見開いたまま、菜摘は言った。その様子にはなんとなくすごみがあった。豊雄もそういう形が一番いいと思った。いや、本当は結婚したいと思ったが、それはどう考えても難しいことだったので、そうするしかないと思った。彼がうなずくと菜摘はうれしそうに笑った。猫みたいだった。また、あの匂いが強まった。彼の気分も高まった。もう一度彼は兄嫁をいつくしんだ。
「これ、あげるね」
菜摘は、小さな銀色のペンダントをはずして、手渡した。ロケットだった。中を開けると、片方に菜摘の写真、片方に豊雄の写真が入っていた。