憑依

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「いったい誰がどういう理由で、これほど貴重なものを二十歳そこそこの若い者に与えるというのだ? こんなものに縁のない俺にだって、このベルトのバックルに金と銀が使われていることがわかるぜ。重みが全然違うもんな。それに、ちりばめられている宝石は、ルビーとかサファイアじゃないのか? もともと怠け者のお前は、東京で暮らすようになって、酒とか女とかギャンブルとかに手を出すようになったんじゃないのか? 悪い仲間と付き合うようになって、仕送りだけでは到底遊ぶ金に足るまいから、あちこち借金を作ったんだろう? どんどん泥沼に沈んでいき、とうとう盗みを働くようになったに違いない。盗品を売りさばくわけにいかないから、やさしい姉貴に金に換えてもらおうと思ってのこのこやってきたんだろう? 違うか? 親父や俺の顔に泥を塗りやがって。色だけでは済まないとはな。どこまでふてぶてしい奴だ。どれ、こうしてやる」
武一郎は過去のことに対する恨みも込めて、力任せに殴り飛ばした。里美とその夫が仲裁に入ったころは、顔のあちこちが赤くはれていた。里美の夫に連れられて、武一郎は朝食をとった。里美は弟をいたわりながら、自室に連れていき、話を聞いてやった。豊雄は、涙を流しながら、すべてありのままに語った。里美は、兄嫁の事件以来、女難の相があるのではないかと、内心弟の行く末を心配していたので、もしもこの話が本当ならば、かえってありがたいことだと、豊雄の肩を持つようなことを言った。そして、武一郎に取りなした。里美の説明を兄は憮然として聞いていた。彼は鋭い目つきで二条家の家宝とかいうものをしばらく観察した。
「二条為基の石帯か。それにしてもどうしてそれほどの家柄の娘が、会ったばかりの男と結婚しようとするのだろうか? 合点がいかない。とにかく、俺も人と会う約束をしているから、一旦和歌山に帰ろう。豊雄もつれていく。里美にも来てもらいたいんだが」
急には休みを取れない夫から許可が出て、姉一人で付いていくことになった。話を聞くと、父の武雄は怖い顔をして、倉庫に山積みしてある新聞紙をひっくり返した。豊雄は父に手渡された新聞紙を次々に読んでいった。そのうちに客との応接を済ませた武一郎も戻ってきた。里美はお茶と果物を運んできた。漁業権をめぐる難しい交渉も実を結び、兄は機嫌がよい。父が二条為基の由緒正しさを証明するような記事を探しているのならいいなあと豊雄は期待する。ちょっと休憩して、みんなでお茶を飲む。久しぶりに和やかな雰囲気だ。こんなふうにこれからは仲よくやっていけるのではないか。そう思った矢先に、茶を飲みながらも紙面から目を離さないでいる武雄の声で軽いおしゃべりがやんだ。
「京都の博物館ばかり探してたから見つからなかったんだな。どうも、関西人は、文化財というと京都か奈良にあるものだと思いこんでしまうんだよなあ。おい、これ、為基の記事だろ?」
武一郎は過去のことに対する恨みも込めて、力任せに殴り飛ばした。里美とその夫が仲裁に入ったころは、顔のあちこちが赤くはれていた。里美の夫に連れられて、武一郎は朝食をとった。里美は弟をいたわりながら、自室に連れていき、話を聞いてやった。豊雄は、涙を流しながら、すべてありのままに語った。里美は、兄嫁の事件以来、女難の相があるのではないかと、内心弟の行く末を心配していたので、もしもこの話が本当ならば、かえってありがたいことだと、豊雄の肩を持つようなことを言った。そして、武一郎に取りなした。里美の説明を兄は憮然として聞いていた。彼は鋭い目つきで二条家の家宝とかいうものをしばらく観察した。
「二条為基の石帯か。それにしてもどうしてそれほどの家柄の娘が、会ったばかりの男と結婚しようとするのだろうか? 合点がいかない。とにかく、俺も人と会う約束をしているから、一旦和歌山に帰ろう。豊雄もつれていく。里美にも来てもらいたいんだが」
急には休みを取れない夫から許可が出て、姉一人で付いていくことになった。話を聞くと、父の武雄は怖い顔をして、倉庫に山積みしてある新聞紙をひっくり返した。豊雄は父に手渡された新聞紙を次々に読んでいった。そのうちに客との応接を済ませた武一郎も戻ってきた。里美はお茶と果物を運んできた。漁業権をめぐる難しい交渉も実を結び、兄は機嫌がよい。父が二条為基の由緒正しさを証明するような記事を探しているのならいいなあと豊雄は期待する。ちょっと休憩して、みんなでお茶を飲む。久しぶりに和やかな雰囲気だ。こんなふうにこれからは仲よくやっていけるのではないか。そう思った矢先に、茶を飲みながらも紙面から目を離さないでいる武雄の声で軽いおしゃべりがやんだ。
「京都の博物館ばかり探してたから見つからなかったんだな。どうも、関西人は、文化財というと京都か奈良にあるものだと思いこんでしまうんだよなあ。おい、これ、為基の記事だろ?」