憑依

36
真名美の声には真実味がこもっていた。真名美のきちんとした態度やまなざしは、聞く者に好感を与えた。叔父と叔母はしきりにうなずきながら聞いている。豊雄は、うそだうそだと心の中でつぶやいていたが、しだいにぐらぐら気持ちが動いてきた。
「私、意識がなくなるときに夢を見ました。私の知らない美しい女の人が出てくるのです。その人はある男の人に声をかけます。すると、その声が自分の発しているものだとわかりました。私はその女の人になっていたのです。そして、男の人と幸せに本を読んだり、音楽を聴いたりして寄り添っているのです。その男の人が豊雄さんだったのです。雨宿りした喫茶店で、あなたを見て、本当に驚きました。あの頃は私もすっかりよくなって、予備校にも通い始めたのです。火事のことや、私が焼死したことになっていることもそのときには全部わかるようになっていました。何度か佐々木家へ名乗り出ようとしたのですが、そういう時に限って、なぜだかものすごく胸苦しくなって、全身が焼けるように熱くなるので、なかなかできないでいたのです。私はあなたにお会いした時、うれしかったのです。この人と一緒にいなくてはいけないのだと、瞬間的に思いました。こんなことは初めてでした。それからのことは説明する必要はないと思います」
「不思議ねえ。そういうことがあるものなのねえ」
叔母は純粋に真名美の話を信じて、巡り合わせの不思議さに感動していた。豊雄はあることを思い出した。兄の不思議な話だ。そのとき自分は、菜摘が、焼死した真名美に乗り移ったと思ったのだ。ふとした瞬間に真名美の姿が菜摘に似ていたことを思い出した。
「いや、俺は騙されないぞ。佐々木真名美は火災で焼死したんだ。ここに生きているはずがない」
豊雄が真顔でいいはなつと、しばらくの間誰も口を開くことができなかった。叔父は、「こんないいとこのお嬢さんに対して失礼なことをいうなよ」と言いたかったが、佐々木家の火事からこっそり抜け出ていたという話は、やはり半信半疑にならざるをえなかったので、とりあえず黙っていた。やがて、大きな目で豊雄を見ていた真名美が、苦笑を洩らすと、張り詰めた空気がやわらいだ。
「豊雄さん、私のこと、本当にお化けだと思うの?」
真名美は清楚な顔立ちをほころばせた。品のいい香りが漂う。若さと魅力に満ち溢れた、年頃の女の体つき。あまりじろじろ見たら、真名美は恥ずかしがって、体をくねらせた。
「だいいち、お化けさんとか幽霊さんとかが、こんな真っ昼間から、しかも、繁華街の大きな商店に入って、たくさん人がいる中で、あなたに会いに来るかしら。私の影があるかどうか見てみる?」
「私、意識がなくなるときに夢を見ました。私の知らない美しい女の人が出てくるのです。その人はある男の人に声をかけます。すると、その声が自分の発しているものだとわかりました。私はその女の人になっていたのです。そして、男の人と幸せに本を読んだり、音楽を聴いたりして寄り添っているのです。その男の人が豊雄さんだったのです。雨宿りした喫茶店で、あなたを見て、本当に驚きました。あの頃は私もすっかりよくなって、予備校にも通い始めたのです。火事のことや、私が焼死したことになっていることもそのときには全部わかるようになっていました。何度か佐々木家へ名乗り出ようとしたのですが、そういう時に限って、なぜだかものすごく胸苦しくなって、全身が焼けるように熱くなるので、なかなかできないでいたのです。私はあなたにお会いした時、うれしかったのです。この人と一緒にいなくてはいけないのだと、瞬間的に思いました。こんなことは初めてでした。それからのことは説明する必要はないと思います」
「不思議ねえ。そういうことがあるものなのねえ」
叔母は純粋に真名美の話を信じて、巡り合わせの不思議さに感動していた。豊雄はあることを思い出した。兄の不思議な話だ。そのとき自分は、菜摘が、焼死した真名美に乗り移ったと思ったのだ。ふとした瞬間に真名美の姿が菜摘に似ていたことを思い出した。
「いや、俺は騙されないぞ。佐々木真名美は火災で焼死したんだ。ここに生きているはずがない」
豊雄が真顔でいいはなつと、しばらくの間誰も口を開くことができなかった。叔父は、「こんないいとこのお嬢さんに対して失礼なことをいうなよ」と言いたかったが、佐々木家の火事からこっそり抜け出ていたという話は、やはり半信半疑にならざるをえなかったので、とりあえず黙っていた。やがて、大きな目で豊雄を見ていた真名美が、苦笑を洩らすと、張り詰めた空気がやわらいだ。
「豊雄さん、私のこと、本当にお化けだと思うの?」
真名美は清楚な顔立ちをほころばせた。品のいい香りが漂う。若さと魅力に満ち溢れた、年頃の女の体つき。あまりじろじろ見たら、真名美は恥ずかしがって、体をくねらせた。
「だいいち、お化けさんとか幽霊さんとかが、こんな真っ昼間から、しかも、繁華街の大きな商店に入って、たくさん人がいる中で、あなたに会いに来るかしら。私の影があるかどうか見てみる?」