憑依
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どれも納得できる内容だった。豊雄の疑いもすっかり晴れたと言いたいところだった。しかし、なにか少し引っ掛かるのだ。そのことについてゆっくり考えていると、叔母がはしゃいだような声を出した。
「もうええやろ。あなたたち婚姻の儀式とかいうもの交したんやろ?」
真名美が口を結んで、目元を赤らめた。その姿がたまらなくいとおしい。
「叔母さん、なんてことを。……あれは、真名美の意志とは関係なく、言わされていたってことなんだから。ねえ、真名美?」
真名美は何も言わずに目を伏せていた。
「ほら、真名美さんは、その儀式を白紙に戻そうとしているわけやないのよ」
「ちょっと、叔母さんはいったい何を言おうとしているの?」
「豊雄、叔母さんな、真名美さんとちょっと話したいさかい、風呂にでも入っててくれへん?」もの問いたげな豊雄をあしらい、部屋から出してしまった。
仕方なく豊雄は風呂に行く。器量もいいし、親と夫の遺産も持っている娘との縁談に目がくらんだんだろうと、豊雄は踏んだ。
真名美の言っていることが真実なのか確かめる必要があったが、生身の体には逆らうことができないようにできているのが、情けないながら自分なのだと豊雄は痛感した。真名美と別れた日に気持ちが戻るのをとどめることができなかった。巨大な二つの磁石のように二人は結びついた。
正式に婚儀をしたのだからと、一年半前のことを前提にして、叔父夫婦は話を進めた。詳細な事情を聞き、豊雄の実家も反対しなかった。叔父の家で新婚生活が始まった。もちろん結婚式は卒業後だが、二人の気持ちが堅いということで、籍を入れた。真名美の親戚である滋野一族の代表も一度あいさつに来た。金属加工メーカーの部長をしているそうだ。念のためにもらった名刺に書かれてある電話番号に光雄が掛けると、物腰の柔らかな女性社員から取り次がれた真名美の伯父が、機嫌よく電話口に出た。叔父が訪問のお礼を述べると、彼は丁重に返礼をしたということだ。今は売り払ったという、真名美の屋敷も実在した。不動産屋に確認すると、書類を見ながら居住期間や住宅の概要などを細かく説明してくれた。それだけのことが確認できると、やっと心が晴れた。豊雄はうれしくなり、エレキギターを真名美に弾いて聴かせた。
「メイビリン!」軽快なピック裁きにあわせて、やさしい声で豊雄は歌う。チャックベリーのナンバーを弾き終わると、目を大きく開いて聴き入っていた真名美が拍手する。
「すごーい! 上手ねえ」
「もうええやろ。あなたたち婚姻の儀式とかいうもの交したんやろ?」
真名美が口を結んで、目元を赤らめた。その姿がたまらなくいとおしい。
「叔母さん、なんてことを。……あれは、真名美の意志とは関係なく、言わされていたってことなんだから。ねえ、真名美?」
真名美は何も言わずに目を伏せていた。
「ほら、真名美さんは、その儀式を白紙に戻そうとしているわけやないのよ」
「ちょっと、叔母さんはいったい何を言おうとしているの?」
「豊雄、叔母さんな、真名美さんとちょっと話したいさかい、風呂にでも入っててくれへん?」もの問いたげな豊雄をあしらい、部屋から出してしまった。
仕方なく豊雄は風呂に行く。器量もいいし、親と夫の遺産も持っている娘との縁談に目がくらんだんだろうと、豊雄は踏んだ。
真名美の言っていることが真実なのか確かめる必要があったが、生身の体には逆らうことができないようにできているのが、情けないながら自分なのだと豊雄は痛感した。真名美と別れた日に気持ちが戻るのをとどめることができなかった。巨大な二つの磁石のように二人は結びついた。
正式に婚儀をしたのだからと、一年半前のことを前提にして、叔父夫婦は話を進めた。詳細な事情を聞き、豊雄の実家も反対しなかった。叔父の家で新婚生活が始まった。もちろん結婚式は卒業後だが、二人の気持ちが堅いということで、籍を入れた。真名美の親戚である滋野一族の代表も一度あいさつに来た。金属加工メーカーの部長をしているそうだ。念のためにもらった名刺に書かれてある電話番号に光雄が掛けると、物腰の柔らかな女性社員から取り次がれた真名美の伯父が、機嫌よく電話口に出た。叔父が訪問のお礼を述べると、彼は丁重に返礼をしたということだ。今は売り払ったという、真名美の屋敷も実在した。不動産屋に確認すると、書類を見ながら居住期間や住宅の概要などを細かく説明してくれた。それだけのことが確認できると、やっと心が晴れた。豊雄はうれしくなり、エレキギターを真名美に弾いて聴かせた。
「メイビリン!」軽快なピック裁きにあわせて、やさしい声で豊雄は歌う。チャックベリーのナンバーを弾き終わると、目を大きく開いて聴き入っていた真名美が拍手する。
「すごーい! 上手ねえ」