憑依

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今日は俺のおごりだからと言いながら、酔っぱらうと健忘症になる悪癖があり、財布から割り勘分をきっちり出す。財布も心細そうなことが多い。豊雄もたまにつきあうが、ちょっと貸してくれないかと言われたこともある。ポルシェはかなり古い年式のものを六十回ローンで払っているらしい。勤めるまでは親に立て替えてもらっているのだ。それと引き換えに、小遣いを相当削減されているようだ。触ろうとすると、手垢をつけるなとものすごい剣幕で怒るので、ポルシェの付近五m以内に近づく知人は皆無である。
学食で豊雄たちが昼を食べはじめると、真名美についていろいろ質問された。「すげえ美人なんだぜ」と誰かが言うと、まだ見たことのない賢素は、おもしろくなさそうである。「俺の彼女、ミスユニバースの一次選考通ったんやで」と、聞かれてもないことを言いだす。誰かが賢素、彼女いたか? といやみっぽくいうと、あほ、交際はこれから正式に申し込むのや、と怒りだす。どうも、気の短い智識である。
「ごめん、言語学の講義が長引いちゃったの」
髪をかきあげながら、真名美がやってきた。黒髪がつやつや光っている。賢素は目を丸くして、起立した。堅苦しくあいさつを始める。真名美と初対面のものは立ち上がった。
「や、これは、豊雄君の奥方様でござりますか。平素お付き合いさせていただいております、横山と申します。末長くご贔屓によろしくお頼み申します」
真名美は賢素と初対面の学生たちに行儀よくあいさつした。
「私、友達と図書館で探し物してから、軽くお昼を済ますわ。また、四講が終わったらね」
「あの、私どもに遠慮したらあかんですわ。ごく近い間柄ですので」賢素は、パイプイスを引いたが、真名美はもうテーブルから離れていた。
「慌ただしくてごめんなさいね。今度またゆっくりご一緒させてください」
賢素は、真名美が去るととたんに顔つきも声も変わった。
「まあ、かなりいい方やな。でも、俺の好みと違うな」
「また、負け惜しみいうてる」他の学生が横合いからいう。
「俺、ああいうタイプあかんねん」
「どこがあかんねん?」さっきと別の学生がいう。
「わからん。肌が合わないのかな? なんか、背中がぞくぞくするのや」
「お前となんか肌を合わしてほしくないてよ。負け惜しみもたいがいにしとけよ」
賢素は、わははと大笑いして、すぐに顔つきを変えて、くんくん嗅ぎまわっている。
「どうしたんじゃい?」
「なんか、焦げくさくないか」
学食で豊雄たちが昼を食べはじめると、真名美についていろいろ質問された。「すげえ美人なんだぜ」と誰かが言うと、まだ見たことのない賢素は、おもしろくなさそうである。「俺の彼女、ミスユニバースの一次選考通ったんやで」と、聞かれてもないことを言いだす。誰かが賢素、彼女いたか? といやみっぽくいうと、あほ、交際はこれから正式に申し込むのや、と怒りだす。どうも、気の短い智識である。
「ごめん、言語学の講義が長引いちゃったの」
髪をかきあげながら、真名美がやってきた。黒髪がつやつや光っている。賢素は目を丸くして、起立した。堅苦しくあいさつを始める。真名美と初対面のものは立ち上がった。
「や、これは、豊雄君の奥方様でござりますか。平素お付き合いさせていただいております、横山と申します。末長くご贔屓によろしくお頼み申します」
真名美は賢素と初対面の学生たちに行儀よくあいさつした。
「私、友達と図書館で探し物してから、軽くお昼を済ますわ。また、四講が終わったらね」
「あの、私どもに遠慮したらあかんですわ。ごく近い間柄ですので」賢素は、パイプイスを引いたが、真名美はもうテーブルから離れていた。
「慌ただしくてごめんなさいね。今度またゆっくりご一緒させてください」
賢素は、真名美が去るととたんに顔つきも声も変わった。
「まあ、かなりいい方やな。でも、俺の好みと違うな」
「また、負け惜しみいうてる」他の学生が横合いからいう。
「俺、ああいうタイプあかんねん」
「どこがあかんねん?」さっきと別の学生がいう。
「わからん。肌が合わないのかな? なんか、背中がぞくぞくするのや」
「お前となんか肌を合わしてほしくないてよ。負け惜しみもたいがいにしとけよ」
賢素は、わははと大笑いして、すぐに顔つきを変えて、くんくん嗅ぎまわっている。
「どうしたんじゃい?」
「なんか、焦げくさくないか」