憑依

50
「正直いって、私にも何が最善の策かわからないのです。しかし、出来る限りの祈祷はさせてもらいます。ただ、効力はせいぜい一年と半年でしょう。それも、あの者らの持ち物を残らず焼き払うことという条件付きです。そうですね。それでは、毎年夏の初めに祈祷をさせてもらうということでどうでしょうかな?」
一同、額が畳みにつくほど深く頭を下げて感謝した。
西田は夜遅くに叔父の家に行った。出来るだけ早く、あの二人の持ち物を焼きたいと光雄に話した。お祓いした方がいいというのだ。光雄は一も二もなく承知して、西田を車に乗せた。集まった親族も、一人、二人と立ち去り、その夜は、豊雄とその母、そして叔母が旅館に泊まった。広い部屋に三人になると、しんと静まり返った。豊雄の気持ちもだいぶ落ち着いてきて、西田の言葉が次第に浸透してくるようだった。叔母と母の真名美に対する心情は、もうとっくに、心配から、薄気味悪さに変じていた。夜中ごろ、叔父からの電話を仲居さんが取り次いでくれた。光雄は興奮していた。
「さっき、西田さんから聞いた時は、実はまだ半信半疑だったけど、うちに帰ったら、一発で信じたよ。家中えらいことになってる」
叔父が家に戻ると、叔母の妹夫婦は、午後あたりから、ひどい匂いが立ちこめてきたので、店を閉めて、店の中に匂いが入らないようにして、家の方は風通し良くしたのだが、あまり効目がなくて困っていたというのだ。
西田も、家に入ったとたんに襲ってきた、ものすごい匂いに、顔を青くした。手分けして、真名美と詩絵の持ち物を一箇所にまとめ、厳重に封をして、一時外の物置に置いた。家中を消毒して回って、やっと、注意しなければ匂いを感じることができない程度にまでになった。店に並べた着物は、すぐ桐箱に収納したためか、問題はないということだ。
この話を聞いて、豊雄はさらに打ちのめされたようになり、ぐったりとして布団の中にもぐりこんだ。
翌日の捜索も空しい結果に終わった。豊雄は警察に頼まれて、現場に立ち会ったり、事情聴取を受けたりした。西田が徳の高い、知る人ぞ知る高僧であるために、警察の豊雄に対する扱いが悪くないのには、ほっとした。さもなければ、豊雄は状況的にもっとも疑わしい人物として、厳しい追及を受けただろう。なんでも西田は、今回のような厳しい修業を何度も重ねており、将来は、天台宗座主の位に就くだろうと、その世界では噂されている人らしい。
一同、額が畳みにつくほど深く頭を下げて感謝した。
西田は夜遅くに叔父の家に行った。出来るだけ早く、あの二人の持ち物を焼きたいと光雄に話した。お祓いした方がいいというのだ。光雄は一も二もなく承知して、西田を車に乗せた。集まった親族も、一人、二人と立ち去り、その夜は、豊雄とその母、そして叔母が旅館に泊まった。広い部屋に三人になると、しんと静まり返った。豊雄の気持ちもだいぶ落ち着いてきて、西田の言葉が次第に浸透してくるようだった。叔母と母の真名美に対する心情は、もうとっくに、心配から、薄気味悪さに変じていた。夜中ごろ、叔父からの電話を仲居さんが取り次いでくれた。光雄は興奮していた。
「さっき、西田さんから聞いた時は、実はまだ半信半疑だったけど、うちに帰ったら、一発で信じたよ。家中えらいことになってる」
叔父が家に戻ると、叔母の妹夫婦は、午後あたりから、ひどい匂いが立ちこめてきたので、店を閉めて、店の中に匂いが入らないようにして、家の方は風通し良くしたのだが、あまり効目がなくて困っていたというのだ。
西田も、家に入ったとたんに襲ってきた、ものすごい匂いに、顔を青くした。手分けして、真名美と詩絵の持ち物を一箇所にまとめ、厳重に封をして、一時外の物置に置いた。家中を消毒して回って、やっと、注意しなければ匂いを感じることができない程度にまでになった。店に並べた着物は、すぐ桐箱に収納したためか、問題はないということだ。
この話を聞いて、豊雄はさらに打ちのめされたようになり、ぐったりとして布団の中にもぐりこんだ。
翌日の捜索も空しい結果に終わった。豊雄は警察に頼まれて、現場に立ち会ったり、事情聴取を受けたりした。西田が徳の高い、知る人ぞ知る高僧であるために、警察の豊雄に対する扱いが悪くないのには、ほっとした。さもなければ、豊雄は状況的にもっとも疑わしい人物として、厳しい追及を受けただろう。なんでも西田は、今回のような厳しい修業を何度も重ねており、将来は、天台宗座主の位に就くだろうと、その世界では噂されている人らしい。