憑依

51
天台宗座主といえば、大学の友人の横山が、父親の跡を継ぐのだと公言しているので、捜索が終わって京都に戻り、叔父の家で正式にお祓いをした時、豊雄は西田にきいてみたことがある。実直な西田も、このときだけは、一瞬笑いをこらえるような表情になった。しかし、すぐにとりなおして、真面目に答えた。
「賢素さんですか。悪い人じゃないんですが、もちろん、非常に優秀ですしね。ただ、なんというか、名声欲とでもいうものがおありのようですね。お父さんのように質朴になられ、今のうちから、山籠りの修業をお積みになるといいのですが、まだ、遊びたい盛りなのでしょうね。そのうちに、落ち着かれるとは思うのですが……」
西田の言葉は、豊雄の印象の通りだったので、思わず笑ってしまった。西田も、珍しくいたずらな目で豊雄を見た。しかし、豊雄はあることを思い出して、西田にも話してみた。
「そういえば、一度、横山に真名美を会わせたことがあるのです。横山はそのとき、何か焦げくさい匂いがすると言っていました。今思えば、彼も法力で、真名美の正体にうすうす気づいたのかもしれませんね」
「そんなことがあったのですか」
意外に感じたのか、西田はしきりに感心していた。
三日目も捜索はむなしく終わった。捜査員たちも、打ち切ってもらいたそうだったので、豊雄は父や叔父たちに相談し、捜索を打ち切ってもらうことにした。
豊雄が叔父の家に戻った翌日、西田のお祓いが執り行われた。
西田は、上半身ががっしりしていて、姿勢がよい。今日は、涼しそうな僧衣を身につけている。広い和室の厚みのある木の長机の真ん中に、西田恒義は正座した。その向かいに豊雄と叔父が座る。叔母は和服で緑茶を淹れている。叔父は恐縮して何度も頭を下げている。
「本当に、西田さんがいらっしゃったおかげで、本当に豊雄は、難を逃れることができました」
西田は、わだかまりのない表情で、軽く手を振った。
「いやいや、これも何かのご縁でしたろう。あの二人の女人は、私を避けていました。鳥が豊雄さんの車を止めたとかいうことですが、もしや、仏の御加護かもしれませんな」
父の武雄も西田にしきりに礼を述べた。真名美にあまり会ったことのない父は、真名美のことを相当ひどく罵った。
「しかし、西田さんに出会うときまでは、ずっと、あの、たちの悪い憑きものにまとわりつかれて、奴らの正体を暴く者はおりませんでした。やはり、あなたの法力で鳥が豊雄にサインを送り、あなたが来るまで、あいつらを足止めしてくれたのでしょう」
「賢素さんですか。悪い人じゃないんですが、もちろん、非常に優秀ですしね。ただ、なんというか、名声欲とでもいうものがおありのようですね。お父さんのように質朴になられ、今のうちから、山籠りの修業をお積みになるといいのですが、まだ、遊びたい盛りなのでしょうね。そのうちに、落ち着かれるとは思うのですが……」
西田の言葉は、豊雄の印象の通りだったので、思わず笑ってしまった。西田も、珍しくいたずらな目で豊雄を見た。しかし、豊雄はあることを思い出して、西田にも話してみた。
「そういえば、一度、横山に真名美を会わせたことがあるのです。横山はそのとき、何か焦げくさい匂いがすると言っていました。今思えば、彼も法力で、真名美の正体にうすうす気づいたのかもしれませんね」
「そんなことがあったのですか」
意外に感じたのか、西田はしきりに感心していた。
三日目も捜索はむなしく終わった。捜査員たちも、打ち切ってもらいたそうだったので、豊雄は父や叔父たちに相談し、捜索を打ち切ってもらうことにした。
豊雄が叔父の家に戻った翌日、西田のお祓いが執り行われた。
西田は、上半身ががっしりしていて、姿勢がよい。今日は、涼しそうな僧衣を身につけている。広い和室の厚みのある木の長机の真ん中に、西田恒義は正座した。その向かいに豊雄と叔父が座る。叔母は和服で緑茶を淹れている。叔父は恐縮して何度も頭を下げている。
「本当に、西田さんがいらっしゃったおかげで、本当に豊雄は、難を逃れることができました」
西田は、わだかまりのない表情で、軽く手を振った。
「いやいや、これも何かのご縁でしたろう。あの二人の女人は、私を避けていました。鳥が豊雄さんの車を止めたとかいうことですが、もしや、仏の御加護かもしれませんな」
父の武雄も西田にしきりに礼を述べた。真名美にあまり会ったことのない父は、真名美のことを相当ひどく罵った。
「しかし、西田さんに出会うときまでは、ずっと、あの、たちの悪い憑きものにまとわりつかれて、奴らの正体を暴く者はおりませんでした。やはり、あなたの法力で鳥が豊雄にサインを送り、あなたが来るまで、あいつらを足止めしてくれたのでしょう」