憑依

77
「キャー!」
優子と小百合は甲高い悲鳴を上げ続けた。男二人は、「ウォー!」と低い咆哮を繰り返した。あっちからもこっちからも、「キャー」とか「ワー」とか、大きな声が聞こえてくる。
ふらふらと出口から四人は現れた。想像以上にしんどかった。とりあえずぼんやりできるものに乗ろうということになり、ボブスレーの山からモノレールに乗ることにした。
モノレールの中で元気を取り戻した優子と賢素は、横に並んで眼下のおとぎの国を眺めて、あれやこれや品評していた。
小百合が黙って外を見ているのが、とても悩ましく見えた。豊雄は小百合の手の柔らかさを思いだしながら、小百合の横顔をしばらく見ていた。まずい。まずい。このまずさは、兄嫁である菜摘を思って感じたまずさと、とても似ている。これはものすごくまずい。豊雄も外を眺めた。
小百合は外を見ながら、豊雄が感じたようなまずさについて思いを致していた。彼女は光雄と佐緒里からあることを頼まれていた。光雄の知人の娘さんと豊雄を一緒にさせたいということだった。彼女はそれを聞いてほっとした。優子が豊雄にのぼせあがっていくのを心配していたからだ。別に心配しなければいけないことではない。豊雄はいい男だし、やさしいし、将来もある。でも、気がかりなのは確かなことだ。いままでのことがあったし、今回の真名美のこともあった。彼はなにか変なものに見こまれている。でも、ほっとした本当の理由はそういうことではないと、自分でよくわかっている。そして、そのことの恐ろしさもよくわかっていた。豊雄のことを好きになってしまったのだ。まだ誰にも気づかれていない。小百合は意志が強く、貞節の観念が確立していた。彼とどうかなることはないという自信があった。ところが、どうも最近おかしくなっている。自分が自分でなくなりかけている。本当に自分はどうなってしまったんだろう。悪魔が勝手に言ったりしたりしてしまうようなのだ。さっきも、ああ、わたしは、人妻でありながら、他の男性に自分から手を握りしめてしまった。でも、ひそかにこうなることをわたしは知っていたんじゃないかしら。今、豊雄さんに縁談が舞いこんできたのはいいことだった。はやく豊雄さんにどこかにいってもらいたい。まずは、優子がこの人に夢中になる前に、いったんわたしが気になるように仕向ける。賢素さんがたまたま現れたこともあるけど、このもくろみはだいたいうまくいっている。縁談を切りだす機会を作ろうとしてどこかに連れだすことも、こうしてうまくいっている。手を握って、わたしが気になるようにすることもできたみたい。作戦どおりだわ。小百合、本当に作戦なの。あなたの本心なんじゃないの? ああ……。
優子と小百合は甲高い悲鳴を上げ続けた。男二人は、「ウォー!」と低い咆哮を繰り返した。あっちからもこっちからも、「キャー」とか「ワー」とか、大きな声が聞こえてくる。
ふらふらと出口から四人は現れた。想像以上にしんどかった。とりあえずぼんやりできるものに乗ろうということになり、ボブスレーの山からモノレールに乗ることにした。
モノレールの中で元気を取り戻した優子と賢素は、横に並んで眼下のおとぎの国を眺めて、あれやこれや品評していた。
小百合が黙って外を見ているのが、とても悩ましく見えた。豊雄は小百合の手の柔らかさを思いだしながら、小百合の横顔をしばらく見ていた。まずい。まずい。このまずさは、兄嫁である菜摘を思って感じたまずさと、とても似ている。これはものすごくまずい。豊雄も外を眺めた。
小百合は外を見ながら、豊雄が感じたようなまずさについて思いを致していた。彼女は光雄と佐緒里からあることを頼まれていた。光雄の知人の娘さんと豊雄を一緒にさせたいということだった。彼女はそれを聞いてほっとした。優子が豊雄にのぼせあがっていくのを心配していたからだ。別に心配しなければいけないことではない。豊雄はいい男だし、やさしいし、将来もある。でも、気がかりなのは確かなことだ。いままでのことがあったし、今回の真名美のこともあった。彼はなにか変なものに見こまれている。でも、ほっとした本当の理由はそういうことではないと、自分でよくわかっている。そして、そのことの恐ろしさもよくわかっていた。豊雄のことを好きになってしまったのだ。まだ誰にも気づかれていない。小百合は意志が強く、貞節の観念が確立していた。彼とどうかなることはないという自信があった。ところが、どうも最近おかしくなっている。自分が自分でなくなりかけている。本当に自分はどうなってしまったんだろう。悪魔が勝手に言ったりしたりしてしまうようなのだ。さっきも、ああ、わたしは、人妻でありながら、他の男性に自分から手を握りしめてしまった。でも、ひそかにこうなることをわたしは知っていたんじゃないかしら。今、豊雄さんに縁談が舞いこんできたのはいいことだった。はやく豊雄さんにどこかにいってもらいたい。まずは、優子がこの人に夢中になる前に、いったんわたしが気になるように仕向ける。賢素さんがたまたま現れたこともあるけど、このもくろみはだいたいうまくいっている。縁談を切りだす機会を作ろうとしてどこかに連れだすことも、こうしてうまくいっている。手を握って、わたしが気になるようにすることもできたみたい。作戦どおりだわ。小百合、本当に作戦なの。あなたの本心なんじゃないの? ああ……。