豹陣
-中里探偵事務所-
4
闇の中を木の葉の黄色い形が飛びかって三人のあちこちに当たった。
「大塚さん、本当にこの寒い中を捜査にご協力いただいてありがとうございます」と、田部井は昭子をねぎらった。
「気にしなくていいよ」
と、昭子は顔いっぱい笑顔にして言った。
「だけど、たまげたよ。マルゲンに行こうと思って外へ出たのよ。ああ、マルゲンってすぐそこのスーパーなんだけどね。そしたらさあ、でっかいジープ(SUVのことである)が走り去った後に人が倒れてるじゃない。私、ただごとじゃないと思って、すぐナンバーを確認したの。3214よ。ごめんね、栃木なんとかなんとかの『は』とか『ま』とかそういうのは覚えられなかったの。でも3214は間違いないよ。すぐ紙に書き取ったしね。だけど、こんな大事件の第一発見者になって、警察に通報することになるなんてねぇ、長く生きてるとこんなことにもでくわすものなのねぇ」
教師の言葉を書き取る真面目な女子高生のように、田部井はすらすら手帳に要点を書きとめた。
「皆川巡査長、手配は?」
アーモンド型の目を向けられて多少どぎまぎしながら皆川は答えた。
「もちろん手配しました。SUVで該当の番号は三台あります」
田部井は皆川の説明を一通り聞いた。それから大塚昭子を家に帰らせた。
ほどなく被害者の身元が判明し、現場からそれほど離れていないところにあるマンションの部屋も捜索した。この一連の捜査を夜の八時ごろまでに終えた時点では、もちろん重要な手掛かりを得たりもしたが、ひき逃げ犯人に直行するには至らなかった。
田部井は捜査本部にいって、高柳に報告した。高柳はいったん帰宅してこいと命じた。高柳は田部井を気遣っている。女性に着の身着のままで仕事させるわけにはいかんだろうと思っているのだ。田部井は捜査の支障になるべくならないよう、高柳の言葉に甘えることにしている。高柳に一言わびをいって愛車に乗って帰ることにした。捜査会議は十一時に始まる。それまでには戻らなければならない。
足利署北の道路を、赤いエクストレイルが、街の光をボンネットに反射させながら、ハンバーガーショップと家電量販店のある交差点を北に曲がっていった。テールランプの照り輝くボディーカラーがつややかだ。
「大塚さん、本当にこの寒い中を捜査にご協力いただいてありがとうございます」と、田部井は昭子をねぎらった。
「気にしなくていいよ」
と、昭子は顔いっぱい笑顔にして言った。
「だけど、たまげたよ。マルゲンに行こうと思って外へ出たのよ。ああ、マルゲンってすぐそこのスーパーなんだけどね。そしたらさあ、でっかいジープ(SUVのことである)が走り去った後に人が倒れてるじゃない。私、ただごとじゃないと思って、すぐナンバーを確認したの。3214よ。ごめんね、栃木なんとかなんとかの『は』とか『ま』とかそういうのは覚えられなかったの。でも3214は間違いないよ。すぐ紙に書き取ったしね。だけど、こんな大事件の第一発見者になって、警察に通報することになるなんてねぇ、長く生きてるとこんなことにもでくわすものなのねぇ」
教師の言葉を書き取る真面目な女子高生のように、田部井はすらすら手帳に要点を書きとめた。
「皆川巡査長、手配は?」
アーモンド型の目を向けられて多少どぎまぎしながら皆川は答えた。
「もちろん手配しました。SUVで該当の番号は三台あります」
田部井は皆川の説明を一通り聞いた。それから大塚昭子を家に帰らせた。
ほどなく被害者の身元が判明し、現場からそれほど離れていないところにあるマンションの部屋も捜索した。この一連の捜査を夜の八時ごろまでに終えた時点では、もちろん重要な手掛かりを得たりもしたが、ひき逃げ犯人に直行するには至らなかった。
田部井は捜査本部にいって、高柳に報告した。高柳はいったん帰宅してこいと命じた。高柳は田部井を気遣っている。女性に着の身着のままで仕事させるわけにはいかんだろうと思っているのだ。田部井は捜査の支障になるべくならないよう、高柳の言葉に甘えることにしている。高柳に一言わびをいって愛車に乗って帰ることにした。捜査会議は十一時に始まる。それまでには戻らなければならない。
足利署北の道路を、赤いエクストレイルが、街の光をボンネットに反射させながら、ハンバーガーショップと家電量販店のある交差点を北に曲がっていった。テールランプの照り輝くボディーカラーがつややかだ。