豹陣
-中里探偵事務所-

探偵
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場面6

疑わしきは断定せず。仮説は仮説として提出する。そして、裏付けが出てくるまで、じっと待つ。それが信条なのだった。
――星新一
『祖父・小金井良精の記』

 大塚昭子が目撃したという3214のSUVは栃木ナンバーには三台あった。
 一台目の持ち主、壬生(みぶ)佳織、三十歳、さくら市在住、事件当時は家族で市内のファミレスに行っていた。店の従業員の証言もある。佳織が、同居している両親と、車で出かけるのを目にした住民もいる。
 二台目の持ち主、増田英治、二十八歳、宇都宮市在住、事件当時はアパートの部屋で、一人でテレビを見ていたと証言している。テレビ番組の内容についても正確に覚えている。もっとも録画できるからアリバイにはならない。近所の聞き込みでは、車がとまっていたような気もするという人から、とまっていなかったような気もするという人まで、様々な答えが返ってきた。怪しいといえば怪しい人物ではある。皆川はこの人物に強い容疑を持っているようだ。
 三台目の持ち主、堀内利行、三十六歳、佐野市在住、ゴルフ場に勤めている。住居は勤め先の近くにある。勤務先、自宅ともに、ほとんど足利市との境界線にあり、買い物などは足利ですることが多いようだ。事件当時は東京に出張していた。裏付あり。当日朝、代車を置いていったトヨタの営業マンが彼のSUBを引き取っていき、翌日(つまり今日の)昼頃に職場に直接引き渡しに来るそうだ。
 堀内のところへ最初に行くことにした。
 堀内利行は佐野市郊外の、つまり彼の職場であるゴルフ場内のカフェで会ってくれた。きちんとした身なりで、物腰の柔らかな男性だった。
「昨夜お電話でお話したとおりですけれども、まだ何か」
 モダンな形のテーブルセットの一方の側のイスを二人に勧め、反対側に彼は腰をおろした。
 昨夜は、亜沙子たちとは別の捜査員が、ナンバー判明後、堀内の自宅に行った。彼の妻は、夫が出張で不在だと説明した。携帯ですぐに連絡を取らせ、電話で簡単に事情を聴取した。彼の自宅の駐車場には確かに代車が置かれていた。
「すみませんね。登録番号が該当したみなさんに同じことをお聞きしているんですよ。電話だけでというわけにはいかないものですからね。東京に出張されていたということですね」
 皆川はいかにも形だけ調書を取っておくのだという感じであった。手帳に書き留めると、すぐに腰を浮かそうとした。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 豹陣-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2015年8月