豹陣
-中里探偵事務所-

18
「古いタイヤを新しいタイヤに生まれ変わらせる。あるいは、使用したプラスチック製品を新しいプラスチック製品に生まれ変わらせる。これが環境に優しいんだ。と、これまではみんなこういうふうに考えていたんですよ」
「私もそう考えていますが、それじゃ、だめなんですか?」
「実はこのやり方だと、再生のために化石燃料を必要とするので、あまりCO2削減には役立たないんですよ」
「そうですか」
譲は素直に驚き、「サーマルリサイクル」という方法に強い興味を感じた。
譲の表情に満足した藤田は、いっそう弁舌さわやかに話を進めた。
「かといって、使用した石油製品を埋め立てるのは環境にもっとよくないですしね」
「ええ」
「それだったら、いっそのこと燃やしてしまって、そこから熱源を取ったらいいんじゃないか、とまあ、こういう発想が出てきたわけなんです」
実際、古タイヤの熱効率は石炭よりも高い。この熱源を発電や製紙に利用すれば、化石燃料を調達して発電するよりも、コストパフォーマンスがよい。それに、燃やしたタイヤの分だけ石油を使わないことにもなるので、CO2の使用を削減したことになる。藤田が言っていることは、譲にとって新鮮な考え方だった。
「つまり、こういうことですか。今までは、石油から燃料とタイヤを製造し、タイヤの方は古くなれば捨てるだけだった。ところが、「サーマルリサイクル」だと、使い終わったタイヤを捨てずに、再度燃料として使用することができる、と」
「全く、おっしゃるとおりです。単純計算として、熱源として使用できる石油が二倍になりますね。同じ熱源を得るために、「サーマルリサイクル」に比べると、今までは二倍も多く石油を使っていたという計算になるわけですから。先ほど、「燃やしたタイヤの分だけ石油を使わない」と申したのはそういうことです。また、別の表現をすれば、電気や紙などをつくるために燃やす石油を、数年間は自動車のタイヤという形で備蓄しておき、時期が来たら発電所や製紙工場に搬入して燃やすことになった、ということになるでしょう」
「なるほど」
「そういうわけで、現在は古タイヤを燃料化することが一大産業になっているんですよ」
どうやら、第一資源株式会社は、こうして近年急成長した会社であるらしいと譲は思った。
工場は中ではなくて外にあった。譲が駐車したところが表で、建物の裏側が工場――というよりは――処理場になっていた。
タイヤの燃料化といっても難しいことではない。要するに、燃やしやすいようにタイヤを細かく切るだけである。一つのタイヤを何百もの細かい切片に切断する。それだけのことだ。
コンクリート工場のように、下から上へラインによってそういう切片が運ばれていた。運ばれた切片は山をなしていた。
「書類を見ても処分されたことは間違いありませんねぇ。事故に遭った可能性があるという車のタイヤを探してみますか」
「結構です」譲は即答した。
そのような作業で時間をつぶしているのだったら、別の角度から調べを進めた方が余程賢明だと思わせるほど、タイヤの切片の山は巨大だった。
「私もそう考えていますが、それじゃ、だめなんですか?」
「実はこのやり方だと、再生のために化石燃料を必要とするので、あまりCO2削減には役立たないんですよ」
「そうですか」
譲は素直に驚き、「サーマルリサイクル」という方法に強い興味を感じた。
譲の表情に満足した藤田は、いっそう弁舌さわやかに話を進めた。
「かといって、使用した石油製品を埋め立てるのは環境にもっとよくないですしね」
「ええ」
「それだったら、いっそのこと燃やしてしまって、そこから熱源を取ったらいいんじゃないか、とまあ、こういう発想が出てきたわけなんです」
実際、古タイヤの熱効率は石炭よりも高い。この熱源を発電や製紙に利用すれば、化石燃料を調達して発電するよりも、コストパフォーマンスがよい。それに、燃やしたタイヤの分だけ石油を使わないことにもなるので、CO2の使用を削減したことになる。藤田が言っていることは、譲にとって新鮮な考え方だった。
「つまり、こういうことですか。今までは、石油から燃料とタイヤを製造し、タイヤの方は古くなれば捨てるだけだった。ところが、「サーマルリサイクル」だと、使い終わったタイヤを捨てずに、再度燃料として使用することができる、と」
「全く、おっしゃるとおりです。単純計算として、熱源として使用できる石油が二倍になりますね。同じ熱源を得るために、「サーマルリサイクル」に比べると、今までは二倍も多く石油を使っていたという計算になるわけですから。先ほど、「燃やしたタイヤの分だけ石油を使わない」と申したのはそういうことです。また、別の表現をすれば、電気や紙などをつくるために燃やす石油を、数年間は自動車のタイヤという形で備蓄しておき、時期が来たら発電所や製紙工場に搬入して燃やすことになった、ということになるでしょう」
「なるほど」
「そういうわけで、現在は古タイヤを燃料化することが一大産業になっているんですよ」
どうやら、第一資源株式会社は、こうして近年急成長した会社であるらしいと譲は思った。
工場は中ではなくて外にあった。譲が駐車したところが表で、建物の裏側が工場――というよりは――処理場になっていた。
タイヤの燃料化といっても難しいことではない。要するに、燃やしやすいようにタイヤを細かく切るだけである。一つのタイヤを何百もの細かい切片に切断する。それだけのことだ。
コンクリート工場のように、下から上へラインによってそういう切片が運ばれていた。運ばれた切片は山をなしていた。
「書類を見ても処分されたことは間違いありませんねぇ。事故に遭った可能性があるという車のタイヤを探してみますか」
「結構です」譲は即答した。
そのような作業で時間をつぶしているのだったら、別の角度から調べを進めた方が余程賢明だと思わせるほど、タイヤの切片の山は巨大だった。