豹陣
-中里探偵事務所-

20
「こんなことやっててもひき逃げ犯人に行き当たるはずないんですから、宇都宮の増田英治を徹底的に取り調べた方がいいですよ」
「でも、被害者についていろいろわかってくればきっとたどり着くわよ」
「コロシなんかじゃないですよ。スマホでも操作しててぶつけたんですよ」
「だって、通りかかった女性がSUVの助手席から出てきた被害者を見てるじゃない」
「関係ないですよ。SUVなんてそれこそ掃いて捨てるほどその辺に走ってるじゃないですか」
書類のいっぱい詰まったダンボールが置いてあるイスの隣のイスに掛けている皆川を見つめて反論しようとすると、亜沙子のスマホが鳴った。
「はい。そうです。田部井です」高柳警部補からだった。「えっ、そうなんですか。はい。それはもちろんいいですけど」
それからしばらく高柳の説明と指示が続いた。高柳が電話を切ると、亜沙子はスマホをしまって重たそうに口を開いた。
「増田英治、この五年ぐらいに二件の交通違反をしているんですって。速度超過よ。国道四号を六十キロオーバーで覆面に捕まって、二回目は東北道を八十キロオーバーで走っているところをオービスにかかったの。裏道でも何でもものすごいスピードで走って、あわや大事故っていう場面を目撃した近所の人たちの証言を、聞き込みをしている捜査員が得たんですって。近所の聞き込みにもうしばらく時間がかかるから、私たちが増田を引っ張ってこいっていうのよ。あっ、そう。しかも、宇都宮の衣料品卸会社に勤めているんだけど、担当が足利とか佐野とかで、ブティックやデパートに配達に行くんだって。小さい会社だから営業車とかはなし。勤め先の社長が言うには、自分の車に積みっぱなしにしておいて、好きなときに回ることも多いんだって」
皆川はにやにやした。「ほらね。俺の読み、当たったじゃないですか」
「まだ決めつけない方がいいですよ」
うつむき加減にして踵をかえし、玄関に進む亜沙子に皆川は追いすがる。
「怒った顔がかわいいですよ。田部井巡査部長」
「別に怒ってないですよ」
忙しくてあまり磨いていない革のローファーに、きれいな線の足を入れる。
「でも、被害者についていろいろわかってくればきっとたどり着くわよ」
「コロシなんかじゃないですよ。スマホでも操作しててぶつけたんですよ」
「だって、通りかかった女性がSUVの助手席から出てきた被害者を見てるじゃない」
「関係ないですよ。SUVなんてそれこそ掃いて捨てるほどその辺に走ってるじゃないですか」
書類のいっぱい詰まったダンボールが置いてあるイスの隣のイスに掛けている皆川を見つめて反論しようとすると、亜沙子のスマホが鳴った。
「はい。そうです。田部井です」高柳警部補からだった。「えっ、そうなんですか。はい。それはもちろんいいですけど」
それからしばらく高柳の説明と指示が続いた。高柳が電話を切ると、亜沙子はスマホをしまって重たそうに口を開いた。
「増田英治、この五年ぐらいに二件の交通違反をしているんですって。速度超過よ。国道四号を六十キロオーバーで覆面に捕まって、二回目は東北道を八十キロオーバーで走っているところをオービスにかかったの。裏道でも何でもものすごいスピードで走って、あわや大事故っていう場面を目撃した近所の人たちの証言を、聞き込みをしている捜査員が得たんですって。近所の聞き込みにもうしばらく時間がかかるから、私たちが増田を引っ張ってこいっていうのよ。あっ、そう。しかも、宇都宮の衣料品卸会社に勤めているんだけど、担当が足利とか佐野とかで、ブティックやデパートに配達に行くんだって。小さい会社だから営業車とかはなし。勤め先の社長が言うには、自分の車に積みっぱなしにしておいて、好きなときに回ることも多いんだって」
皆川はにやにやした。「ほらね。俺の読み、当たったじゃないですか」
「まだ決めつけない方がいいですよ」
うつむき加減にして踵をかえし、玄関に進む亜沙子に皆川は追いすがる。
「怒った顔がかわいいですよ。田部井巡査部長」
「別に怒ってないですよ」
忙しくてあまり磨いていない革のローファーに、きれいな線の足を入れる。