安部礼二小説作品集

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　登録番号の該当者は五人だった。

　小林健司、六十三歳。佐野市在住。無職。小学校の教頭を退職して、陶芸サークルに通っている。事故が起きた時刻には、近くの公民館にいて、陶器を作製していた。当日参加していたサークルのメンバー全員が、それを証言している。
　佐藤嘉泰、五十九歳。栃木市在住。市内の工場に勤務。事故が起きた時刻には、会社から帰宅後、妻と二人の子供を連れて、近所の食堂に行き、夕食を食べていた。家族と食堂の店員が、それを証言している。
　北原遼二、三十四歳。大田原市在住。市内の工場に勤務。事件時刻は工場で残業をしていた。社員たちからも複数の証言がある。会社が使用しているタイムレコーダーでも、退社していないことが確認できている。また、北原の住む大田原市は佐野市からは遠方であり、北原も佐野にはほとんど行ったことがないと言う。
　田沼有美子、三十七歳。足利市在住。市役所に勤務。事件当日は車検中で、ディーラーから借りた代車に乗っていた。
　横山直樹、二十八歳。群馬県桐生市在中。佐野市内の建設会社に勤務。事件時刻は帰宅中だったということだが、今のところそれを裏付ける証言はない。

　美由紀が片口を手に取って、亜沙子につぐと、お猪口の半分も満たさないうちに、中身が終わってしまった。譲は、すぐそれに気づいた。
「もう少し飲むよね。また結人でいいかな？　高知の酔鯨（すいげい）っていうお酒が手に入ったんだけど……」
「それにする」
　ということで、譲は別の片口に、よく冷えた酔鯨を、一升瓶から移した。
「横山以外は、みんなアリバイがあるんでしょ」
　美由紀が酔鯨をつごうとすると、お猪口にあった結人を亜沙子は飲み干した。
「そうなの。だから、そのときも、横山から何とか自供を引き出そうとして、内田さんが頑張ったのよ」
　内田とは、そのときの事件に携わった、佐野署交通課の巡査長であった。つまり、前回のひき逃げ事件は、内田と亜沙子が協力しあい、今回は、皆川と亜沙子が協力しあっている、というわけだ。どちらも、交通事故か殺人か、はっきり断定できないので、こうした措置がとられている。
「ねえ、ちょっと」
　美由紀はいった。
「そのときも車検中の人がいたのね」
　亜沙子は手帳のページをめくった。
「私もいま、説明しながら、そう思った」
「車検をしたディーラーは、別のところなの？」
「どうだったんだろう？　本人に確認したのは間違いないわ。ディーラーにも確認したと思うわ。でも、担当者が電話で確認した報告を受けただけだから、私も社名までは知らないわ」