豹陣
-中里探偵事務所-
37
「そうでしょう。よくある手なんですが、これをうまく使えれば、敵がまんまと引っかかるかもしれないのです」
「たとえば、どういうことですか」
「たとえば、かなり容疑が濃厚な人がいるのに、これといった証拠を見つけられない場合を考えてみてください。その人の不審なところを警察が突こうとしても、警戒してなかなか尻尾をださないかもしれません。ところが、なにかをかぎつけたらしい一般人が、彼から利益を得ようとして近づいたとしたらどうでしょうか」
「それは、危険ですね。まかり間違えば、その一般人は殺されるかもしれませんね」
「そう、危険ですね」
沸き立った油の中で、海老がはねた。その油が皆川の腕に飛んだ。
「あちっ」
「あ、大丈夫ですか」
譲はすぐにあたらしいおしぼりを渡した。
「大丈夫です」
皆川はひんやりしたおしぼりで腕を包んだ。
「でも」
譲の目がきらりと光った。
「その、容疑濃厚な人が、その一般人に危害を加えようとするタイミングで、うしろから虎陣が登場したらどうなるでしょうか」
皆川は黙って考えた。冷たいおしぼりが肌に気持ちよかった。のどに湿り気がほしかった。生のジョッキを傾けた。
「生、もう一杯いかがですか」
「すみません、お願いします」
ビールサーバーで新しいジョッキにビールがつがれる。
「お待たせしました」
譲がカウンターにジョッキを置くと、皆川は頭を下げて、ジョッキを手に持った。
「さきほどの虎陣というのは、もしかすると私の役目ですか」
そこで、譲は、自分の考えた作戦をはなした。そのあいだに、皆川はもういっぱいビールをお代わりした。
「しかし、それは危険ですよ」
「ですから、皆川刑事の力がどうしても必要なんですよ」
亜沙子は、ずっと二人の様子を見ていて、興味深かった。誰に対しても高圧的になることが多い皆川が、なぜか譲には遠慮していた。でも、それはなんとなくわかった。彼のようなタイプは、譲みたいな人が苦手なんだろうな、とおもった。
「しかし……」
皆川が納得できずに、まだなにかいおうとすると、カラカラと引き戸がひらいた。
「たとえば、どういうことですか」
「たとえば、かなり容疑が濃厚な人がいるのに、これといった証拠を見つけられない場合を考えてみてください。その人の不審なところを警察が突こうとしても、警戒してなかなか尻尾をださないかもしれません。ところが、なにかをかぎつけたらしい一般人が、彼から利益を得ようとして近づいたとしたらどうでしょうか」
「それは、危険ですね。まかり間違えば、その一般人は殺されるかもしれませんね」
「そう、危険ですね」
沸き立った油の中で、海老がはねた。その油が皆川の腕に飛んだ。
「あちっ」
「あ、大丈夫ですか」
譲はすぐにあたらしいおしぼりを渡した。
「大丈夫です」
皆川はひんやりしたおしぼりで腕を包んだ。
「でも」
譲の目がきらりと光った。
「その、容疑濃厚な人が、その一般人に危害を加えようとするタイミングで、うしろから虎陣が登場したらどうなるでしょうか」
皆川は黙って考えた。冷たいおしぼりが肌に気持ちよかった。のどに湿り気がほしかった。生のジョッキを傾けた。
「生、もう一杯いかがですか」
「すみません、お願いします」
ビールサーバーで新しいジョッキにビールがつがれる。
「お待たせしました」
譲がカウンターにジョッキを置くと、皆川は頭を下げて、ジョッキを手に持った。
「さきほどの虎陣というのは、もしかすると私の役目ですか」
そこで、譲は、自分の考えた作戦をはなした。そのあいだに、皆川はもういっぱいビールをお代わりした。
「しかし、それは危険ですよ」
「ですから、皆川刑事の力がどうしても必要なんですよ」
亜沙子は、ずっと二人の様子を見ていて、興味深かった。誰に対しても高圧的になることが多い皆川が、なぜか譲には遠慮していた。でも、それはなんとなくわかった。彼のようなタイプは、譲みたいな人が苦手なんだろうな、とおもった。
「しかし……」
皆川が納得できずに、まだなにかいおうとすると、カラカラと引き戸がひらいた。