豹陣
-中里探偵事務所-

50
本線に車を入れて、しばらくすると関は話しはじめた。
「私にタイヤを確認させてくださることはほんとうに感謝してもしきれないことです。そのタイヤが私の依頼したタイヤであれば、私は責任ある行動を取らなければならないでしょう」
そこでいったん関は話を切り、車内は雨の中を高速で走る車体がたてる音だけになった。関は口をゆがませて、話を続けた。
「そこでご相談というのはほかでもないのですが、こんな私も人並みに妻や子どものことがとても心配なものですから、もし中里様が目をつぶってくださるとおっしゃってくださるのならば、そのタイヤを私にお譲りいただけないでしょうか。もちろん、それ相当のお礼はいたします。中里様、いかがでしょうか」
助手席の譲は身じろぎもせずに黙っていた。
「わかります。中里様のおっしゃりたいことは、私、よくわかります。こんなとんでもないお願いをしなくてはならないことは、私にとってもほんとうに情けない状況なのですが、どうか、私を助けていただきたいのです」
譲は黙っている。
「一本五十万でどうでしょうか」
譲は黙っている。
「一本百万、これ以上はかんべんしてください」
関の声が裏返った。
譲がはじめて顔を動かした。
「関さん、それほどほしいとおっしゃるのなら、タイヤはお譲りしますよ」
関の顔が輝いた。
「ほんとうですか!」
「ただし」
「なんでしょうか?」
「なぜ今回のようなことになったか、そのいきさつを教えていただけますか」
「それは……」
「では、さきほどの話はなかったことにしてください」
「ま、待ってください」
と関はすかさずいって、しばらく考えてから、
「しかし、それはタイヤを確認させていただいてからでもかまいませんか」
といった。
「もちろんです」
そのあとは、高速を降りてナビが示した道順を確認したり、見晴らしのいい場所があるかをきいたりしていたが、しばらくすると無言で車を走らせた。そのうちにだいぶ譲の実家に近づいた。
譲の実家が見えてくると、関はまた口をひらいた。
「もうこの辺ですよね」
「ええ」
至近距離になると、譲は細かく指示をして、まもなく彼の実家の敷地内に車をとめさせた。玄関をあけて、関を居間に通すと、譲はガレージからタイヤを一本運んできた。
「ここに入っています」
関は、分厚い封筒をダイニングのテーブルの上に置いた。
「今日はこのタイヤをお渡しします。次回は二本目のタイヤをお渡ししましょう」
関は、タイヤを立てたり寝かしたりして、確認した。自分が車検を担当し、第一資源株式会社に処理を依頼したものと同じ製品であることがわかると、両手でタイヤを持ったまま、深くお辞儀をした。
「私にタイヤを確認させてくださることはほんとうに感謝してもしきれないことです。そのタイヤが私の依頼したタイヤであれば、私は責任ある行動を取らなければならないでしょう」
そこでいったん関は話を切り、車内は雨の中を高速で走る車体がたてる音だけになった。関は口をゆがませて、話を続けた。
「そこでご相談というのはほかでもないのですが、こんな私も人並みに妻や子どものことがとても心配なものですから、もし中里様が目をつぶってくださるとおっしゃってくださるのならば、そのタイヤを私にお譲りいただけないでしょうか。もちろん、それ相当のお礼はいたします。中里様、いかがでしょうか」
助手席の譲は身じろぎもせずに黙っていた。
「わかります。中里様のおっしゃりたいことは、私、よくわかります。こんなとんでもないお願いをしなくてはならないことは、私にとってもほんとうに情けない状況なのですが、どうか、私を助けていただきたいのです」
譲は黙っている。
「一本五十万でどうでしょうか」
譲は黙っている。
「一本百万、これ以上はかんべんしてください」
関の声が裏返った。
譲がはじめて顔を動かした。
「関さん、それほどほしいとおっしゃるのなら、タイヤはお譲りしますよ」
関の顔が輝いた。
「ほんとうですか!」
「ただし」
「なんでしょうか?」
「なぜ今回のようなことになったか、そのいきさつを教えていただけますか」
「それは……」
「では、さきほどの話はなかったことにしてください」
「ま、待ってください」
と関はすかさずいって、しばらく考えてから、
「しかし、それはタイヤを確認させていただいてからでもかまいませんか」
といった。
「もちろんです」
そのあとは、高速を降りてナビが示した道順を確認したり、見晴らしのいい場所があるかをきいたりしていたが、しばらくすると無言で車を走らせた。そのうちにだいぶ譲の実家に近づいた。
譲の実家が見えてくると、関はまた口をひらいた。
「もうこの辺ですよね」
「ええ」
至近距離になると、譲は細かく指示をして、まもなく彼の実家の敷地内に車をとめさせた。玄関をあけて、関を居間に通すと、譲はガレージからタイヤを一本運んできた。
「ここに入っています」
関は、分厚い封筒をダイニングのテーブルの上に置いた。
「今日はこのタイヤをお渡しします。次回は二本目のタイヤをお渡ししましょう」
関は、タイヤを立てたり寝かしたりして、確認した。自分が車検を担当し、第一資源株式会社に処理を依頼したものと同じ製品であることがわかると、両手でタイヤを持ったまま、深くお辞儀をした。