豹陣
-中里探偵事務所-
54
「わかりました」
と関は必死の形相でいった。
「あなたの頼みを引き受けましょう」
宮原は鼠(ねずみ)をいたぶる猫のようにいった。
「私はあなたになにも頼んでいませんよ。あなたが私に頼んでいるのです。私はあなたに頼みたいことなどなにもありません。それではこれで失礼します」
宮原は席を立とうとした。
今度は関が引きとめた。
「待ってください。わかりました。私の頼みをきいてください。その代わり先ほどご提案いただいたことは明日間違いなく実行いたします」
「はじめからそうおっしゃってくださればよかったんですよ」
宮原はうれしそうな顔をして、おいしそうにコーヒーを口に含んだ。
「そして、私の地獄のような毎日が始まりました」
関は話の途中でふたたび立ち寄った自動販売機で買った缶コーヒーを一口飲んだ。
「はじめのうちは通帳の開設でした。三つ、四つ、つくらされました。ある日、振り込みは最近難しくなってきたので、現金を受け取りにいってほしいといわれました。どうにもいやでしたが、逆らうことはできませんでした。しかし、純朴そうな老人が老後のために一生懸命たくわえたお金を百万も、二百万も、ときには五百万も受け取りにいくのは、耐えがたいことでした。それに、いくらなんでもこれ以上こんなことをやっていたら、さすがに警察につかまるだろうとおもい、事故を目撃したことを秘密にしてくれたことに対する恩返しはもう十分に果たしたはずだから、もうこれ以上つきまとわないでほしいと伝えようとおもった矢先に、宮原が受け取り方法を変えることにしたといってきました。宅配便を使うというのです。私の経営する会社名と私の偽名まで用意されてありました。私は、もうこのへんで勘弁してくれないかといいました。すると、悪魔のような宮原は、営業所に私の本名で送るぞと脅しました。そんな宅配物が営業所に届いたら大変です。私は宮原のいうことに従うほかありませんでした。それにしても、宅配とは宮原も考えたものです。中になにが入っているか確かめられませんからね。それに、宅配は速くて確実ですしね。考えてみれば紙幣なんていうのはただの紙ですから、書類として送れば、だれも怪しみませんし、日本の宅配システムは優秀ですから、次の日にはまず間違いなく宛名の住所に届くでしょう。それが何回か続き、いよいよ私はあせりました。とうとう私は宮原に電話でいいました。もうこれ以上はできない、と」
と関は必死の形相でいった。
「あなたの頼みを引き受けましょう」
宮原は鼠(ねずみ)をいたぶる猫のようにいった。
「私はあなたになにも頼んでいませんよ。あなたが私に頼んでいるのです。私はあなたに頼みたいことなどなにもありません。それではこれで失礼します」
宮原は席を立とうとした。
今度は関が引きとめた。
「待ってください。わかりました。私の頼みをきいてください。その代わり先ほどご提案いただいたことは明日間違いなく実行いたします」
「はじめからそうおっしゃってくださればよかったんですよ」
宮原はうれしそうな顔をして、おいしそうにコーヒーを口に含んだ。
「そして、私の地獄のような毎日が始まりました」
関は話の途中でふたたび立ち寄った自動販売機で買った缶コーヒーを一口飲んだ。
「はじめのうちは通帳の開設でした。三つ、四つ、つくらされました。ある日、振り込みは最近難しくなってきたので、現金を受け取りにいってほしいといわれました。どうにもいやでしたが、逆らうことはできませんでした。しかし、純朴そうな老人が老後のために一生懸命たくわえたお金を百万も、二百万も、ときには五百万も受け取りにいくのは、耐えがたいことでした。それに、いくらなんでもこれ以上こんなことをやっていたら、さすがに警察につかまるだろうとおもい、事故を目撃したことを秘密にしてくれたことに対する恩返しはもう十分に果たしたはずだから、もうこれ以上つきまとわないでほしいと伝えようとおもった矢先に、宮原が受け取り方法を変えることにしたといってきました。宅配便を使うというのです。私の経営する会社名と私の偽名まで用意されてありました。私は、もうこのへんで勘弁してくれないかといいました。すると、悪魔のような宮原は、営業所に私の本名で送るぞと脅しました。そんな宅配物が営業所に届いたら大変です。私は宮原のいうことに従うほかありませんでした。それにしても、宅配とは宮原も考えたものです。中になにが入っているか確かめられませんからね。それに、宅配は速くて確実ですしね。考えてみれば紙幣なんていうのはただの紙ですから、書類として送れば、だれも怪しみませんし、日本の宅配システムは優秀ですから、次の日にはまず間違いなく宛名の住所に届くでしょう。それが何回か続き、いよいよ私はあせりました。とうとう私は宮原に電話でいいました。もうこれ以上はできない、と」