烏賊がな
-中里探偵事務所-
20
シックなテーブルに真っ白いテーブルクロスがかかり、落ちついた色のナプキンが折り目正しく置かれている。若いウェイターがワインクーラーをテーブルの上に置いた。赤と白一本ずつあった。
「僕の気に入りのワインなので、大塚さんのお口に合うかどうかわかりませんが、いかがですか。大塚さんは赤と白はどちらがお好きですか」
優果は驚いてしまった。気に入った女の子を誘う前に高級店の予約を入れるのが鴻上なのだ。
「予約、なさったんですか……」
「あ、そんな気にしなくていいですよ。もともと今日は一人で食べるつもりで、予約しておいたんです。さっき、研究室で話をしていたとき、予約した時間に間にあわなくなったら困るとおもって、ちょっとトイレに立ったついでに、時間をずらしておいたんです。それで、大塚さんは夕食どうするのかな、もう予定がはいっているのであれば、また電話で変更すればいいことだとおもって、一応二人分の席を確保してみたんです。先に説明しておけばよかったんですけど、なんとなく言い出せなくて、店についちゃったんです」
「あら、そういうことだったんですね」
優果は鴻上の言い訳のうまさに舌を巻いた。次のようにいうのがやっとだった。
「先生、私なんかにそんなに気を遣わなくてもいいんですよ」
「いや、気を遣うなんてほどのことはないんですよ。どうせ私が食べるついで、といっちゃ失礼だけど、そのぐらいにおもってください」
真っ白いふきん布巾を手にしているウェイターにちらっと目を向けて、鴻上はもう一度同じ質問をした。
「それで、大塚さんは赤ワインと白ワインはどちらがいいですか」
「でも、先生、お車でお帰りになるのではないですか」
「もちろん車は運転しないさ。ちゃんと代行を呼ぶから心配いりませんよ。それに、大塚さんも代行で送ってもらうから安心して飲んでいいですよ」
「えー、そんな、ますます申し訳ない気がするんですけど……、でも、じゃあ、せっかくですから、少しだけ飲んじゃおうかしら」
優果は酒が嫌いではなかった。特にワインには弱かった。もちろん、アルコールが弱いという意味ではない。
「じゃあ、赤ワインをいただいてもよろしいですか」
ウェイターは布巾で赤ワインの瓶を包むと、コルク抜きを器用に使って、優雅にコルクを抜いた。
シェフが調理をする鉄板は意外とすぐ近くにあった。鉄板の上で鮮やかに調理される素材をみながら、二人は会話を楽しんだ。
「僕の気に入りのワインなので、大塚さんのお口に合うかどうかわかりませんが、いかがですか。大塚さんは赤と白はどちらがお好きですか」
優果は驚いてしまった。気に入った女の子を誘う前に高級店の予約を入れるのが鴻上なのだ。
「予約、なさったんですか……」
「あ、そんな気にしなくていいですよ。もともと今日は一人で食べるつもりで、予約しておいたんです。さっき、研究室で話をしていたとき、予約した時間に間にあわなくなったら困るとおもって、ちょっとトイレに立ったついでに、時間をずらしておいたんです。それで、大塚さんは夕食どうするのかな、もう予定がはいっているのであれば、また電話で変更すればいいことだとおもって、一応二人分の席を確保してみたんです。先に説明しておけばよかったんですけど、なんとなく言い出せなくて、店についちゃったんです」
「あら、そういうことだったんですね」
優果は鴻上の言い訳のうまさに舌を巻いた。次のようにいうのがやっとだった。
「先生、私なんかにそんなに気を遣わなくてもいいんですよ」
「いや、気を遣うなんてほどのことはないんですよ。どうせ私が食べるついで、といっちゃ失礼だけど、そのぐらいにおもってください」
真っ白いふきん布巾を手にしているウェイターにちらっと目を向けて、鴻上はもう一度同じ質問をした。
「それで、大塚さんは赤ワインと白ワインはどちらがいいですか」
「でも、先生、お車でお帰りになるのではないですか」
「もちろん車は運転しないさ。ちゃんと代行を呼ぶから心配いりませんよ。それに、大塚さんも代行で送ってもらうから安心して飲んでいいですよ」
「えー、そんな、ますます申し訳ない気がするんですけど……、でも、じゃあ、せっかくですから、少しだけ飲んじゃおうかしら」
優果は酒が嫌いではなかった。特にワインには弱かった。もちろん、アルコールが弱いという意味ではない。
「じゃあ、赤ワインをいただいてもよろしいですか」
ウェイターは布巾で赤ワインの瓶を包むと、コルク抜きを器用に使って、優雅にコルクを抜いた。
シェフが調理をする鉄板は意外とすぐ近くにあった。鉄板の上で鮮やかに調理される素材をみながら、二人は会話を楽しんだ。