烏賊がな
-中里探偵事務所-

探偵
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「あ、それではいけません」
「えっ、どうしてですか」
 山脇は、シフトと同時に押さないと、上段のプリント・スクリーンではなく、下段のシステム・リクエストの機能が働いてしまうことを、無駄のない丁寧な言い方で説明した。
「シフトといっしょに」
 優果はシフト・キーを押し、
「プリント・スクリーンっと」
 しかし、優果は、プリント・スクリーンを押す瞬間、シフトから左手の人さし指を離してしまった。
「あー、またやっちゃった」
 優果は大きい声をだして、両手をあげた。
「まあ、慌てずにもう一回やってみましょう」
 山脇は、必死にこらえている声でいった。
 今度こそ、優果は正しい操作を行った。
「このあとは、どうすればいいですか」
「では、エクセルを立ちあげてみてください」
 優果はエクセルを立ちあげた。山脇は、優果のマウスポインタをエクセルシートの左上のセルまで誘導し、そこに、プリント・スクリーンで写しとった画面を貼り付けさせた。
「あ、さっきの画面だ」
 不思議がった優果は、山脇に、この操作法について、納得のいくまで質問を重ねた。山脇は、その一つ一つに、実に丁寧に答えた。
 プリント・スクリーンは、パソコンに映しだされた画面を、そのままそっくりコピーしてくれる機能である。貼り付ける場所は基本的にはどこでもかまわない。ワードでもいいし、一太郎でもいいし、エクセルでもいい。それなのに、山脇がエクセルを選んだのはなぜなのか。それには、山脇なりの理由があった。一太郎やワードなどといったワープロソフトは、立ちあげると、基本的にA4縦置きの画面がでてくる。そこにプリント・スクリーンで写しとった画面を貼り付けると、横幅に制限がかかってしまい、自動的に画面が縮小されてしまう。すると、細かい文字や絵柄などは、目を凝らしてみても、よく見えない。その点エクセルは、A4縦置きの用紙ではなく、かなり大きなキャンバスか模造紙を一枚大盤振る舞いに与えてくれる。パソコンの画面の複写を一枚貼り付けたって、どうということはない。だから、エクセルに貼り付けると、パソコンに映しだされた画面が、なにからなにまで、そっくりそのままでてくる。ともすると、複写であることを忘れて、マウスポインタを動かして、クリックしてしまいそうになるぐらいである。クリックしても反応しないからおかしいなと感じ、プリント・スクリーンで写しとった画面であることを思いだす、なんていうことも時々ある。
「それでは、だいたいの操作はご理解いただけましたか」
「はい、理解できたとおもいます。ありがとうございます」
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 烏賊がな-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2017年9月