烏賊がな
-中里探偵事務所-
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文学部が二人を連れていったのは、吉野家だった。すると、経済学部も、吉野家が好きだといって、中にはいった。毎日弁当を持たされる譲は、外食をする機会に恵まれなかったから、吉野家がどういう店かよくわからなかったが、意地を張って、吉野家は俺も好きだといって、中にはいった。
注文したとおもったら、すぐに牛丼がきた。文学部は、その丼に、とんでもない量の紅ショウガを乗っけた。
譲が驚いた顔を隠して、文学部の丼を観察していると、
「やっぱ、吉野家の牛丼は、こうやって食べないとな」
と、偉そうにいった。
「そうそう」
といって、経済学部も、同量のショウガを盛りつけた。
「たしかに」
といって、譲は、文学部より気持ち多めにショウガをよそった。
すると、文学部は、譲よりショウガを多くした。経済学部も右にならった。
今度は、文学部が、七味を振りかけはじめた。いつまでも振りかけている。丼の上面が真っ赤になった。
経済学部もまねをした。譲も負けていられなかった。
今度は、文学部が、かき混ぜた生卵を、箸で掘った丼の中心部に流し入れて、ぐちゃぐちゃかき混ぜた。
「これがうまいんだよな」
文学部は、丼の縁を口につけて、サラサラ流しこんだ。
「うん」
譲もまねをした。経済学部も左にならった。
食べる前には、大変なことになったとおもったが、サラサラ口の中に流しこむと、とてもおいしかった。紅ショウガの細切りがさわやかで、七味がほどよい辛さだった。
吉野家の七味はあまり辛くないので、多めにいれないと風味がでないのだった。
そのことに、文学部は、経験からか、だれかからの教育からか、すでに知っていたのだった。
譲は、不思議と文学部に親近感をいだいた。
文学部は、片岡だ、といった。片岡なんというんだ、と経済学部がきくと、明貞だ、とこたえた。どんな字だと経済学部がきくと、明るいのあきに、王貞治のさだだ、とこたえた。
経済学部は、漱石の『吾輩は猫である』の迷亭のことをいった。譲も、明貞ときいた瞬間にぼんやりおもったことが形になった気がして、同意した。お前はメイテイだ、と経済学部がいった。それ以来、譲もメイテイと呼ぶようになった。
注文したとおもったら、すぐに牛丼がきた。文学部は、その丼に、とんでもない量の紅ショウガを乗っけた。
譲が驚いた顔を隠して、文学部の丼を観察していると、
「やっぱ、吉野家の牛丼は、こうやって食べないとな」
と、偉そうにいった。
「そうそう」
といって、経済学部も、同量のショウガを盛りつけた。
「たしかに」
といって、譲は、文学部より気持ち多めにショウガをよそった。
すると、文学部は、譲よりショウガを多くした。経済学部も右にならった。
今度は、文学部が、七味を振りかけはじめた。いつまでも振りかけている。丼の上面が真っ赤になった。
経済学部もまねをした。譲も負けていられなかった。
今度は、文学部が、かき混ぜた生卵を、箸で掘った丼の中心部に流し入れて、ぐちゃぐちゃかき混ぜた。
「これがうまいんだよな」
文学部は、丼の縁を口につけて、サラサラ流しこんだ。
「うん」
譲もまねをした。経済学部も左にならった。
食べる前には、大変なことになったとおもったが、サラサラ口の中に流しこむと、とてもおいしかった。紅ショウガの細切りがさわやかで、七味がほどよい辛さだった。
吉野家の七味はあまり辛くないので、多めにいれないと風味がでないのだった。
そのことに、文学部は、経験からか、だれかからの教育からか、すでに知っていたのだった。
譲は、不思議と文学部に親近感をいだいた。
文学部は、片岡だ、といった。片岡なんというんだ、と経済学部がきくと、明貞だ、とこたえた。どんな字だと経済学部がきくと、明るいのあきに、王貞治のさだだ、とこたえた。
経済学部は、漱石の『吾輩は猫である』の迷亭のことをいった。譲も、明貞ときいた瞬間にぼんやりおもったことが形になった気がして、同意した。お前はメイテイだ、と経済学部がいった。それ以来、譲もメイテイと呼ぶようになった。