烏賊がな
-中里探偵事務所-
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その次の日の夕暮れどきだった。山谷印刷というきいたことのない印刷所から電話があった。私がホームページに載せている小説を読み、感心したから、私の小説を出版したいというのだ。そのころ、私は、高校の教師をやりながら小説を書き、ホームページに載せていたが、見る人などほとんどいなかった。昔、ある出版社の文学賞に応募して賞を取り、本を出版してもらったことがあったが、結局、ほとんど売れなかった。そのあと、二、三の作品を書いたが、不発に終わり、それ以後は、仕事を頼まれることがなくなった。たまに、きいたことのない出版社から電話や郵便物で、本をだしませんかという話がくるが、それらはすべて自費出版の勧誘であった。だから、山谷印刷からの話もてっきりそうだろうと決めてかかった。私が断ろうとすると、電話の主は、費用はすべてうちが持ちますと、いいだした。私はそれをきくと、もう少し話をきいてみる価値があるような気がした。といっても、どうせ、売れなかった場合は著者がすべて引き取るとか、なにかそういう裏があるにちがいないが、それが判然とするまでは相手のいうことをきくだけきいて、相手のもくろみが判然となった暁には、電話を切ればよいとおもった。電話をかけてきたのは女性だった。その女性がいったことはだいたい次のとおりだった。
一、私には文章を書く力があるとのこと。
一、出版するのは、ホームページですでに発表した作品ではなく、新作であること。
一、山谷印刷の編集者(彼女)と細部までストーリーを練ったうえで、小説を執筆すること。
一、出版にかかる費用はすべて山谷印刷が出資すること。
一、売れ残った場合も著者が買いとることはないこと。
一、山谷印刷は私のアパートの近くにあること。
一、近所に文才のある人がいることを知り、以前から温めていた企画を実現してみようと、一大決心をしたとのこと。
私の食指が動いたのは、意外にも、印刷所が近所であることと、ストーリーをいっしょに考えてくれるということだった。
地元の町工場みたいな印刷所が、だれかの力を借りて、温めていたストーリーを世にだしたい、という話が、妙に私の心を打ったのだ。また、私は、人々を面白がらせたり、感動させたりするストーリーを生みだすことに、自信を失いかけていたので、この印刷所が持ちかけてくれた話は、渡りに船という感じがしたのだ。
とにかく、私は、彼女と会うことにした。
一、私には文章を書く力があるとのこと。
一、出版するのは、ホームページですでに発表した作品ではなく、新作であること。
一、山谷印刷の編集者(彼女)と細部までストーリーを練ったうえで、小説を執筆すること。
一、出版にかかる費用はすべて山谷印刷が出資すること。
一、売れ残った場合も著者が買いとることはないこと。
一、山谷印刷は私のアパートの近くにあること。
一、近所に文才のある人がいることを知り、以前から温めていた企画を実現してみようと、一大決心をしたとのこと。
私の食指が動いたのは、意外にも、印刷所が近所であることと、ストーリーをいっしょに考えてくれるということだった。
地元の町工場みたいな印刷所が、だれかの力を借りて、温めていたストーリーを世にだしたい、という話が、妙に私の心を打ったのだ。また、私は、人々を面白がらせたり、感動させたりするストーリーを生みだすことに、自信を失いかけていたので、この印刷所が持ちかけてくれた話は、渡りに船という感じがしたのだ。
とにかく、私は、彼女と会うことにした。