烏賊がな
-中里探偵事務所-
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私たちは、まもなく結婚した。私は彼女の家に移った。彼女の家は、印刷所を兼ねていた。印刷所には彼女以外の社員はいなかった。きくと、かつての社長は父親だったのだという。母ははやくに亡くなり、父と二人で暮らし、曾祖父が作った小さな印刷所を細々と経営していた。そして、数年前に父親がなくなると、彼女が一人で仕事を引き継いで、今日までどうにかやってきた。そう志乃は淡々と話をつづけた。
インターネットで小説をホームページに載せている人が近所にいることを知って、いままで温めていたアイデアを出版してみたいと考えるようになった。そう考えると、いてもたってもいられなくなり、私のところへ電話をかけてしまった。そういう志乃の話は、疑わしいとおもうに足りたが、その時の私には作り話にはおもえなかった。志乃の話を伝聞で知る人にはわからないだろうが、彼女の息づかいや真剣な面持ちが、嘘をいって人をだますものではないと、私が経験上知っていたためだ。もちろん、なにかがおかしいという気はしたが、少なくとも、私に対する悪意は感じられなかった。むしろ、そこには好意や善意といってもいいような、私に対する熱烈な想いがあるように感じられたのである。
彼女の家に移ってから、私は彼女がきかせてくれた話を執筆した。といっても、彼女がいったとおりをパソコンに打ちこむだけだった。月曜日が祝日だったから、土日月と三日間執筆にあてられた。三日間、朝から晩まで打ちこむと、執筆が完了した。火曜日から通常どおり私が高校に出勤すると、今度は志乃の番だった。彼女は金曜日までに印刷を終え、あらかじめ協力を依頼していた出版社から、正規のルートで私の本を発行した。いくつかの新聞に広告もだした。はじめのうちは売れなかったが、ツイッターで広まりだすと、メディアが大きく取りあげた。すると、よくわからないけどなんだか世間で評判があるらしい、というものをとりあえず買ってしまう人が、私の本を一斉に買った。私は、そういう人は世の中にたくさんいるのだということを実感した。私の本、というか、志乃の話は、そのようにして初期段階で飛びついた人々から、非常に歓迎された。そして、そういった人たちの反響がさらなる反響を巻き起こし、私の本は一つのブームになった。
インターネットで小説をホームページに載せている人が近所にいることを知って、いままで温めていたアイデアを出版してみたいと考えるようになった。そう考えると、いてもたってもいられなくなり、私のところへ電話をかけてしまった。そういう志乃の話は、疑わしいとおもうに足りたが、その時の私には作り話にはおもえなかった。志乃の話を伝聞で知る人にはわからないだろうが、彼女の息づかいや真剣な面持ちが、嘘をいって人をだますものではないと、私が経験上知っていたためだ。もちろん、なにかがおかしいという気はしたが、少なくとも、私に対する悪意は感じられなかった。むしろ、そこには好意や善意といってもいいような、私に対する熱烈な想いがあるように感じられたのである。
彼女の家に移ってから、私は彼女がきかせてくれた話を執筆した。といっても、彼女がいったとおりをパソコンに打ちこむだけだった。月曜日が祝日だったから、土日月と三日間執筆にあてられた。三日間、朝から晩まで打ちこむと、執筆が完了した。火曜日から通常どおり私が高校に出勤すると、今度は志乃の番だった。彼女は金曜日までに印刷を終え、あらかじめ協力を依頼していた出版社から、正規のルートで私の本を発行した。いくつかの新聞に広告もだした。はじめのうちは売れなかったが、ツイッターで広まりだすと、メディアが大きく取りあげた。すると、よくわからないけどなんだか世間で評判があるらしい、というものをとりあえず買ってしまう人が、私の本を一斉に買った。私は、そういう人は世の中にたくさんいるのだということを実感した。私の本、というか、志乃の話は、そのようにして初期段階で飛びついた人々から、非常に歓迎された。そして、そういった人たちの反響がさらなる反響を巻き起こし、私の本は一つのブームになった。