烏賊がな
-中里探偵事務所-
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出版社の人々は私を大事にしてくれた。次の作品を書いてほしかったからだ。志乃は地味に暮らせば十分なお金はあるから、学校をやめて、今度は志乃のする話ではなく、自分の書きたいものを思い通りに書けばいいといった。私は、志乃が話してくれるおもしろいストーリーでいくつか本を出版し、作家として確立したあとで、自分の書きたいものを手がければ十分だといった。ここで出版社の期待を裏切るのは、このあと作家としてやっていくとしたら、大変な痛手だともいった。あと少し作品をださないと、将来の収入が心配だから、学校もやめられないともいった。それに対して志乃は、無駄遣いしなければ、いま入ってきたお金でも、十分専業作家になれるのに、と、深いため息をつき、じゃあ、あの話のつづきを話すわね、といった。
あの話のつづきは、前の話に劣らずおもしろかった。前の話同様、微に入り細に入り、話してくれたから、私のやることは、彼女が話したとおりに執筆するだけだった。原稿をみた出版社も喜び、さっそく出版した。さらに勢いが増し、空前の大ヒットとなった。
志乃はもうこれで生活の心配はなくなったから、学校をやめて、うちでゆっくり自分の書きたいことを書いて暮らしなさい、といった。私は志乃のいうとおりに、学校をやめて、今度こそ自分の書きたいことを書いて暮らそうとした。しかし、出版社は私たち二人の平穏な日々を望んではいなかった。私は、世話になっている出版社の編集者が困っているのを気の毒におもった。また、本を楽しみにしている人々の期待にもこたえてあげたいとはおもわないのですか、という編集者のことばに心をかき乱され、志乃に相談してみた。志乃がいやがるような気がしていたが、案の定いやがった。それでも、頼みこむと、彼女は話をしてくれた。それは、今までどおりおもしろかった。学校をやめた私は、あまり日数を要しないで、原稿を仕上げた。出版社は喜んだ。世間の人々も喜んだ。私は得意になった。志乃は、流行作家になってよかったわねと、寂しそうにいった。出版社は、次の本をだしたがった。私もだしたかった。志乃に頼むと、暗い顔をして、何度も首を横にふった。書いた本が売れるという快感が癖になってきていた私は、もはや志乃の気持ちを考えられなくなっていた。私は長い時間志乃を口説いた。暗い表情で黙りこくっていた志乃は、これを最後にするって約束できる? と私にきいた。私は次の作品を出版できたら、それを最後にできるとこたえた。これで最後にしてくれないのなら、私はあなたと暮らせないのよ、わかってるの? と志乃は重ねた。冷静な判断力を失っていた私は、少し怒った口調で、わかってるよといった。いまにしておもえば、私はこのときの志乃の言葉をしっかりと受け止めるべきだったのだ。しかし、もはやこのときにもどることはできないのである。
あの話のつづきは、前の話に劣らずおもしろかった。前の話同様、微に入り細に入り、話してくれたから、私のやることは、彼女が話したとおりに執筆するだけだった。原稿をみた出版社も喜び、さっそく出版した。さらに勢いが増し、空前の大ヒットとなった。
志乃はもうこれで生活の心配はなくなったから、学校をやめて、うちでゆっくり自分の書きたいことを書いて暮らしなさい、といった。私は志乃のいうとおりに、学校をやめて、今度こそ自分の書きたいことを書いて暮らそうとした。しかし、出版社は私たち二人の平穏な日々を望んではいなかった。私は、世話になっている出版社の編集者が困っているのを気の毒におもった。また、本を楽しみにしている人々の期待にもこたえてあげたいとはおもわないのですか、という編集者のことばに心をかき乱され、志乃に相談してみた。志乃がいやがるような気がしていたが、案の定いやがった。それでも、頼みこむと、彼女は話をしてくれた。それは、今までどおりおもしろかった。学校をやめた私は、あまり日数を要しないで、原稿を仕上げた。出版社は喜んだ。世間の人々も喜んだ。私は得意になった。志乃は、流行作家になってよかったわねと、寂しそうにいった。出版社は、次の本をだしたがった。私もだしたかった。志乃に頼むと、暗い顔をして、何度も首を横にふった。書いた本が売れるという快感が癖になってきていた私は、もはや志乃の気持ちを考えられなくなっていた。私は長い時間志乃を口説いた。暗い表情で黙りこくっていた志乃は、これを最後にするって約束できる? と私にきいた。私は次の作品を出版できたら、それを最後にできるとこたえた。これで最後にしてくれないのなら、私はあなたと暮らせないのよ、わかってるの? と志乃は重ねた。冷静な判断力を失っていた私は、少し怒った口調で、わかってるよといった。いまにしておもえば、私はこのときの志乃の言葉をしっかりと受け止めるべきだったのだ。しかし、もはやこのときにもどることはできないのである。