烏賊がな
-中里探偵事務所-

探偵
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場面42

スリー・エーシズは、鏡にトランプの画がかいてある場末のバーだ。クラブの1(エース)、ハートのエース、スペードのエース。ダイアのエースはない。バーテンダーの顔つきから察すると、ダイアのエースは、彼の袖口のなかにでもあるようだ。いや、もう一枚、なにかのエースもかくしてるかもしれない。
エド・マクベイン
『通り魔』

 山脇しげのり繁紀巡査長は書斎でビールを飲みながら、メールチェックをしていた。
 向かいの部屋は静かだ。中学二年生の娘はテニス部の練習に疲れて、熟睡しているようだった。隣の寝室も静かだ。妻はまだ寝ていない。階下で入浴しているのだ。
 優果から送られてきたメールにはエクセルファイルが添付されていた。
 優果は山脇に教わったことを忠実に実行していた。エクセルにはたくさんの履歴がコピーしてあった。
 山脇はその一つ一つの履歴のアドレスを順番に、インターネット・エクスプローラーで検索していった。だいたいは鴻上の研究と関わりがあると思われるサイトだった。しかし、中には通販や飲食店など、私的な目的で閲覧したと思われるサイトもいくつかあった。それらについては、特に念入りに調べていった。そのなかにリサイクル業者のサイトがあった。これがなかなか興味深かった。いらなくなったものは何でも引き取るし、困っていることがあればどんな仕事でも引き受けるというのだ。もっとも興味深かったのは、この業者の所在地が佐野市にあることだった。
 彼は部屋を出て、階下に降り、冷蔵庫からもう一缶ビールを取り出した。
 風呂から上がった彼の妻が近づいてきた。
「あら、珍しいわね。今日はいつもより一本多いじゃない」
「もしかすると、事件解決の糸口がつかめそうなんだよ」
 山脇は妻に求められて、事件について当たり障りのない話をした。
「じゃあ、ネット上で見つかった手掛かりを調べに行けば、未解決の殺人事件が解決できるかもしれないのね」
「ああ」
「その手掛かりをあなたが探しに行くの?」
 妻は寝間着を身に付けながらきいた。
「それはわからないけど、場合によったらそうなるかな」
「すごいじゃない。頑張って犯人を見つけてね」
「ああ、じゃあ、おやすみ」
「はい。あなたもほどほどにして寝てね」
「わかった」
 山脇は冷たいビールの缶の結露で手を濡らしながら、二階に上がっていった。彼はリサイクル業者に行くかどうかとても迷い始めていた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 烏賊がな-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2017年9月