烏賊がな
-中里探偵事務所-

探偵
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 優果と陽菜は顔を見合わせた。優果は眉間にしわを寄せて、紅茶のカップを持ち上げた。すっかり冷え切っている。
「あの、大塚さんは近々ご実家に帰られる予定はありませんか」
「予定はありませんけど」優果は陽菜の言いたいことがわかった。「リサイクルショップに行ってもいいわよ」
「本当ですか。よかった。これで真相解明に一歩近づけますね」
「そんなに期待されても困りますけど、何か手掛かりは得られるかもしれないわね」
「困っていることがあればどんな仕事でも引き受けるリサイクル業者なんて絶対怪しいですよ」
「でも、どんな質問をして探りを入れればいいかしら」
 陽菜は腕組みをして考え込んだ。暖房が暑いと言って、セーターを脱ぎ、シャツになった。
 しばらくしてから優果は言った。
「困っていることがあればどんな仕事でも引き受けるって本当なのかしら。何か仕事を頼んでみようかしら」
「えっ、大塚さんは何か困っていることがあるんですか」
「もちろん作るのよ」
 優果も腕組みをした。陽菜が席を立って、紅茶を淹れ直した。
「庭に侵入する猫を何とかしてほしいっていうのはどうかしら」
 カップを持ち上げようとしていた陽菜が狂喜した。
「それは名案です。大塚さん、頭いい!」
「いざ契約するときになったら、猫の特徴とか侵入する時間帯とかを調べてからもう一度来ますって言って、店を出るの」
「すごい、すごい。」
 話がまとまり、優果が帰りかけると、陽菜が引き止めた。
「待ってください。私、リサイクルショップに引き取ってもらいたいものがあるんですけど、頼んでもいいですか」
 彼女はクローゼットを開けて、しばらく探し物をした。優果はキッチンを借りて、洗い物をした。カップをふきんで拭いていると、陽菜がキッチンに来た。
「これなんですけど、お願いできますか」
 CDラジカセだった。
「お安いご用ですよ」
 優果がそう言うと、陽菜はうれしそうに礼を述べながら、ダンボール箱に詰めた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 烏賊がな-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2017年9月