烏賊がな
-中里探偵事務所-

探偵
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場面46

「奇妙なことがあるんだけど。あいつらは尾行してるのを隠そうともしないのよ。あたしを尾行してるのを知らせたがってるみたいなの」 「そうさ。二つの目的にかなってる。あんたがどこに行って、誰に会うかがわかるし、あんたをぴりぴりさせて、つい肩ごしにふりかえらずにはいられないようにさせられる。監視と脅しの両方が簡単にできるって寸法さ」
F・ポール・ウィルソン
『始末屋ジャック 凶悪の交錯』

 二人の男は座っていた。
 そこへ紺の模様が施された丼と漬物が並べられていく。並べ終わると二人の女が二人の男の横にそれぞれ着いた。
 優果が真っ先に箸を取った。
「きゃー、うまそー」
 田中が茶を注ぎに来た。
「山脇さんは、ビールの方がいいんじゃない?」
 亜沙子を山脇が見た。
「いや、車で帰らなければなりませんから」
 譲も勧めた。
「駅まで亜沙子に送らせますよ。明日電車で来ることにしませんか」
「そうですか。なんだか、悪いですねえ」
「いや、こちらも、車を駅に一泊させてしまうのですから、申し訳ありません」
 田中がビールジョッキを二つ運んできた。
「では、オールドマーケットの調査がうまくいくことを願って、乾杯」
 譲が発声すると、山脇も乾杯と言って、ジョッキを合わせた。
 鉄火丼を食べながら、しばらく雑談が続いた。
「オールドマーケットのことがわかったら、大塚さんは神戸から戻ってこられます。それまでは、もう少し神戸大学の聴講生を演じていてもらえますか」
 優果は箸を止めた。
「あの、オールドマーケットのことがすぐにわかったら、私はもう神戸にいない方がいいでしょうか」
「ええ、いる必要もないでしょう」
「私、神戸で根本さんと協力して、鴻上教授について調べていくことも続けた方がいいと思うんです」
「なるほど」譲は山脇に視線を移した。「山脇刑事はどう思われますか」
「オールドマーケットの裏の仕事及びオールドマーケットと鴻上との関係が判明すれば、事件解決は時間の問題です。もちろん、別の線で鴻上に探りを入れることも同時に進めていくべきでしょう。オールドマーケットのことがわかったあとでも、鴻上周辺には調べるべきことがたくさんありそうです。しかし、ここまで来れば栃木県警や兵庫県警が正式に捜査を進められるのではないでしょうか。やはり、もう民間人が関わらない方がいいと思いますが」
「私も山脇巡査長に賛成です」亜沙子がきっぱりと言った
「でも、根本さんと信頼関係を築いてきましたから、これを無駄にするのはもったいないですよ」
 優果は絶対に譲らないという顔付きだった。
「わかりました。中里探偵事務所は、オールドマーケットのことがわかったあとも、必要であれば、現地調査員を配置します」
「所長、ありがとうございます」優果は興奮して顔を薄く染めながら言った。
「譲さん、あまり深入りさせないで」亜沙子は硬い口調で言った。
「大丈夫。綿密な計画を立てるよ」
「もうっ」
 亜沙子は席を立って、厨房に入った。しばらくすると、田中と一緒にケーキとコーヒーを運んできた。
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【--- 作品情報 ---】
◆ 題名 烏賊がな-中里探偵事務所-
◆ 執筆年 2017年9月